全て奪って。 なにもかも奪って、おいて。 「嗚呼、全てをお持ちの貴方が愛おしい狂おしい」 奪っておいて。 なにもかも、この手にないことなんて、承知なのに。なのに。 「嗚呼、全てをお持ちの貴方が狂おしい憎らしい」 この手にはなにもない。 生きる気力は、惰性と彼女への思慕に変化して。 それは果たして、自身のものか。 「嗚呼、全てをお持ちの貴方が憎らしい穢らしい」 化け物化け物化け物。 それだけが価値。であるなら、俺である必要などなかったくせに。 徐福、たった一人の老頭(ラオトウ)のために、突き詰めてきた変態。 付き合う董奉も、変わらない。 「嗚呼、全てをお持ちの貴方が穢らしい羨ましい」 ふつと。 言葉を切って、「嗚呼、それは嘘ですね」と。何でもないように、言う。 「嗚呼、全てをお持ちの貴方が愛おしくて狂おしくて憎らしくて穢らしくて」 この手にはなにもないと、しっている、くせに。 「いいえ、思徒様」 思考を読んだかのような、絶妙のタイミングで男は嗤う。 男は囀る、男は嘯く、男は囁く、男は奏でる。 「貴方は全てをお持ちですよ。だって貴方は徐福の"モノ"なのですから」 大陸系最大黒社会、徐福。 その至高品なのだから、全て持っているに等しい。 たとえ彼が、そんなものいらなくても。 それら全て、いらなくても。 ほら、たとえば永遠の命なんて。欲しがるひとはたくさんいるでしょう。 そんなものを求めたことなど、一度もない青年に向かって男は笑みを向ける。 冷ややかで冷たい赤い視線。 「嗚呼、あなたはそれらより、もっと欲しいものがあるんですね。なんて、傲慢な方でしょう!」 態とらしい、高らかな声。 だが間違ってはいない。 永遠の命、捨て置けそんなもの。なっている本人は、迷惑以外の何者でもない。 欲しいものは他にあるから。 それが、たとえ。 彼らにとってクズのような、ものであるとしても。 *** 思徒を傲慢呼ばわりする董奉を書きたかったんです。 |