顔をのぞきこまれて。
 赤い瞳は眇められて。
 にこにこと、にこにこと。
 絶え間なく、果てもなく。

「貴方を殺してしまいたく思うことがあります」

 堪えきれずに。
 殺してしまいたくなる。
 うっかりと、あっさりと。

「貴方を殺してしまいたくなります。少爺」

 傷一つつけずに殺す術など、いくらでも持ち合わせている。
 だから。
 気に病むことなく、恐れることなく。
 殺してしまいたくなる。
 否、その言葉は正しくない。
 殺したい、とは、生きているものに使う言葉。
 ならば、既に死んでいるものを更に、更に、――場合は。

「貴方を殺してしまいたい」

 澱む池より、尚穢れた感傷で。
 貴方を――してしまいたい。
 誰も見ない貴方が、彼女しか見ないままで。

「嗚呼、貴方がただの化け物であれば。私はこれほど悩むこともないでしょうに」

 董奉の首を安易に挿げ替えることなど、出来はしない。
 それだけの価値の首である。
 だからといって、この芸術品であり化け物を殺して赦されるはずもないのだけれど。
 嗚呼、それでも。
 誘惑は大きい。
 ――して、しまいたいと。
 こうして、告げてしまうほどには。


「"董奉"」

 不意に開かれた、化け物の癖に健康な人間のそれのように赤い口唇を震わせて。
 低い声が、男を呼ぶ。
 化け物はひたすらに不快な顔。
 諦めぬ瞳は、潔いというよりもかえって嗜虐心を高められる結果にしかならない。
 逃れられぬは眼光。
 無自覚に捕らえたのは夜色。
 さて、罪人は何処だ。


***
 死神の本能と同義的に。董奉は芸術品を傷つけることは厭いそう。


綺羅星フーガ




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