肩口、に。
 なにか、くすぐったいものを感じ取って。
 身を捩ろうとしたけれど、甘く押さえつけられて。
 人の肌は、気持ちよすぎて。
 置いていかれた、寒さは悲しすぎて。
 嗚呼、今これを拒絶してしまえば。
 自分はまた、あそこに連れ戻されるのだと。
 わけのわからない恐怖に、身を竦ませてしまって。
 動け、なくなってしまった。
―――くしゃり。
 髪を分け入る、手の優しさが。
 思い返させる、置いていった、あの―――。
「チカ?」
 低く呼ぶ声は、妹のものでもクソ親父のものでも、まして母親のものでもなく。
 意識が、不意にずるりと"此方側"に引き摺られる。
「チカ?」
 もう一度かけられた声の主を、見やる。
 充分に綺麗めな面。
 モテるのを、知っている。
 学力面では優秀すぎるほど優秀で、運動面でもそれは同様。
 雑学王とでもいうべきか、いらぬ知識を山ほど抱えている男。
 人肌の温もりを、くれた男。
「―――芝?」
「オハヨ。ゆっくり寝れた?」
「あ? あー…………おう」
「朝弱くないはずなのに、ボケてんなぁ」
 くつりと笑いながら、男は楽しげに手を滑らせた。
 肩口を、何かが滑っていく。
「芝ぁ?」
 起き抜けすぐのせいか、其処まで寝起きが悪くなくとも舌の足りない語がついと出る。
 それに、可愛いかわいい。と、何度も呟く男の気がしれない。
「もうちょっとじっとして」
 すぐ終わる。
 言いながら、淀みない手つきが動かされていく。
 面は良い、勉強も運動も出来る。
 おまけに器用。
 ある意味、憧れることさえ莫迦らしいほどの男だ。芝玲一郎。
「はい、完成」
「ナニガ」
「洗面所の鏡で見ておいで。割りと良く出来た、俺の自信作」
 ひらひらと手を振って、ベッドから起きる気の無いらしい男はぽすりと横になった。
 上半身裸の身体を引き摺って、ぐらぐらと危ない足取りで歩いていく。
 その背には、男の角度からが一番見やすい。
 大きくは無い。
 ちょっとしたペイントだ。
 但し、ペンは油性だから落ちづらいだろうが。桃佳に言わなければ、彼は除光液で消すことは思いつかないだろう。
 赤い華が、白い肌の上に鎮座している。
 散ることを知らない、華。
 生き残るには、蝶がいなければならない、なんて。
 なんて、運命的。


***
 華は造花の意味もあるとか聞いたことがあるようなないような(適当


原色華




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