―――別段。
 どうということは、ないのだ。
 化け物が、なにを求めようと。
 どれほど求めようと。
 どれだけ求めようと。
 そのために、なにをしていようと。
 別段、興味は無いのだ。
 だって化け物だ。これが、自分好みの美女ならばまた違っただろうが。
 化け物だ。興味は無い。
 けれど。
―――ひとり、たったひとり。生まれるも無い、死ぬのもない、最初っから死んでて、それでもたったひとり。
 ひとり。求め続ける。
 その、執念が。
 その、執着が。
 もういっそ、妄念とさえ、呼べるのではないかと思うものが。
 人間を気取ることも出来ない、くせに。
 ぐ。と口元を押さえる。強烈に込み上げる吐き気を、耐えるように。
「紅棍? 怎麼了?(どうかしましたか?)」
「あー、や。なんでもねぇんだけど。董奉大兄」
「はい?」
「あの化け物さァ」
「手出しはいけませんからね。老爺達に叱られたくはないでしょう?」
「そりゃ勘弁なんだけどよ。―――あの化け物さァ」
「なんです」
「壊しちゃって、イイ?」
「―――どうぞ。出来るものなら」
「言うねぇ。董奉大兄。俺には無理、って?」
 止めることもせず、むしろやってみせろと言って、それよりもソファの上でだらしなく座る紅棍に、ちゃんと座れと説教を一つ。
 笑みを零す必要を感じさせることも無く、ただ、当たり前のことを言うように当たり前の調子で。
 當然(もちろん)、と、首肯した。
「アレだよ。大兄も、じゅーぶん、化け物級だぜ」
「褒めていただいても何も出ませんが、貶されたらお仕置きくらいは残していけますよ?」
 無言の威圧に、口を噤む。
 両手を挙げて、即降参。この男に敵うとは思いたくない。
 戦闘もさることながら、彼の変質ぶりは見て聞いて知っている。
 敵いたくないし、同じフィールドにあげられることさえ嫌だ。ひととして。
 その様子に、ふむ。と軽く考えるようにしてから。口を開くのが、本意など知らせぬ瞳の持ち主。
「あちらは完璧な化け物。私はただの人間ですから」
 では、後はよろしく。
 言って立ち去る背を、見送る必要など皆無ならばやらぬのが最良だ。
「―――どーこが」
 そしてぽつりと残された男は、呆れたように、唾棄するように、呟く。
「あの化け物と、どっこいの執着でいるくせに、お行儀良く言ってんじゃねぇよ」
 胸糞悪い。吐き出すように、中指を思い切り突き立てる。下品などと、説教を垂れる人間はいない。
 常識人ではないものの。
 真っ当な神経の持ち主を自称する男は、皮肉を囀る。
 香港の街は、騒がしくなってきたばかりだ。



***
 徐福は私の好みを知りすぎていて困る。


下手な考え休むに似たり




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