髪に触れたり。
 たとえば、肩を抱いたり。
 いや、この人嫌いで寂しがりの猫が。
 近づくことを、赦すこととか。
 もうそれだけで、赦されている気分になる。
 色んなものを。
 それは、凄まじい勢いで箍とか枷とか呼ばれるものを、喰らって腐食させていく。
 止める気のない、自分自身にも問題があるのだろうが。
「芝?」
 どうしたのかと、眼が語る。
 寂しがる、様子で。
 なんでもないから心配するな。そんな気分で、頭を撫ぜてあげれば、少し崩れたように笑った。
 明らかに、彼のその精神は病的なものを滲ませている。
 付け入れば、簡単だろうと思わせるほどに。
―――今は、まぁ。必要ないかな。
 必要な時まで、覚えていれば良い。
 この猫は、人にいて欲しいくせにきちんとえり好みをするものだから。
 そう易々と他者には懐かないだろうという、予測はあった。
「なぁー、どうしたんだよ。さっきっから」
「いやいや。なんでもないよ?」
 笑顔を、向けてやれば。
 返す言葉を、忘れて納得してしまうのだから。
 哀れで無様でかわいそうなほどに理想通り。
「芝?」
「なんでもないって。心配した?」
「別に!」
 拒否する、その態度さえ。
 受け入れられると、思っているからやるのだろう。甘えの一種だ。なんて、可愛い。
―――可愛い、なぁ。俺も末期っぽいけど、まぁ、可愛い、し。
 可愛い。
 腕を伸ばして。抱き込む。
 細い身体を、抱きしめて。笑う。心底、気分が良い。
「なんだよ芝」
 不機嫌な声も、気にならない。
 抱きしめていられるという、事実さえあればいい。
 肩を震わせて笑う。
 腕の中で、ぎゃあぎゃあ文句を言っても。お前は他者の腕を振り払えないでしょう?
 悪いなんて、思ってやらない。
 可愛いこいつが、悪いのだ。



***
 ぎゅうぎゅう抱きしめて結局ねこぱんちくらいそうな。


御機嫌サボタァジュ




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