頬を撫でて、顔を覗き込む。 愛しいもののように。 美しいものだから、その行為に間違いはないのだろう。 眼を凝らしてみても、彼が美しいものであることに変わりは無い。 美しい物。 有機物と無機物を隔てるものとは、なんだろうか。 自力で動くこと? 人形だって、もうずっと前から動ける。 自分の意思があること? 人工知能とやらが成功したら? 生きていること? 真実が、どうであるかはさて置き。―――ならば、彼はなんだというのだろう。 死んでも孤独、死に続けて孤独。生まれながらに死んでいる彼は。 生きたことなど、ない彼は。 矢張り。 口に灯るのは、どうしたって笑みだ。 「きもちわるい」 綺麗な顔が、歪められる。 喉を潰されたままであったけれど、それでも口唇を震わせて彼が言う。 美しい化け物は、最近とみに口が悪くなった。 「酷いですねぇ。思徒様。私は貴方のことを、考えていたのに」 「もうそうをげんじつにもちこむな、へんたい」 矢張り、先代の報告以上に口が悪くなっている。 此れもあの、Z-LOANと係わり合いになってからだろうか。 嗚呼。嘆息が漏れる。 美しい芸術品から吐かれる言葉が、こんなでは老爺達に叱られてしまうだろう。 「思徒様」 訝しげに、視線を寄せられる。 背筋を快感が走り抜ける。通り過ぎたのは、えもいわれぬ恍惚。 頬を撫ぜる。 指先で、何度も、飽きることなぞ考えもつかぬように。 「御存知、ありませんでしたか。そういえば」 何をだと、早く言えと。 焦らされることに、嫌悪を滲ませながら男の目の前から逃れられぬ美しい化け物は潰された喉のことなぞ忘れて奥歯を噛み締める。 「我,喜歡美麗的東西(私は、美しいものが好きなんですよ)」 美しい化け物。 美しく醜悪な化け物。 嗚呼、嗚呼、嗚呼、嗚呼。 だからあなたも、あいせそうです。 敢えて声に出さず。にっこりと、微笑みかけた。 言われた当の化け物はといえば―――あまりのおぞましさに、卒倒しかけていたけれど。 *** あれだけきれいなもの、嫌う理由はそうないと思う。 |