粘質の音を響かせて、董奉の名を継ぐ男は笑う。 腕の中に化け物。 陶酔する表情は、けれど化け物を手にしているとは思えないほどだ。 恍惚のままに、男は手指を動かした。 そうする度化け物は震えるけれど、董奉が気にすることではない。 化け物の調教は男の仕事であり、趣味に等しいものである。 ぞくぞくと背中をかけていくものに、浸りたいほどだ。 「嗚呼、思徒少爺。忍耐了沒有意義??(嗚呼、思徒様。我慢したって意味なんてありませんよ?)」 殊更嫌う甘い声音で、背後から耳朶を食みながら言ってやる。 けれど腕の中の化け物は、背筋をびくびくと震えて堪えるのだ。なんて滑稽な図だろう。 ぎしりと鎖が鳴る。 符で鎖自体に術をかけられ、それだけで化け物には負荷がかかっているのだろうが、董奉の知ることではない。 優しくしてやる義理など、これっぽっちもないのだから当然だ。 「這個、變態………!(この、変態………!)」 「おや。それは心外だ。こんな扱いをされて、勃たせているあなたのほうが十二分に変態でしょう?」 それとも淫乱と申し上げるべきでしょうか? 嫌がる呼び名で言ってやれば、肩越しに睨みつけられる。 そうまで元気にさせているつもりはなかったが、なかなかどうしてこの化け物は順応が早いらしい。 以前であれば息も絶え絶えであったはずなのに。少し、面白くなくて、無理に押し込んだままの玩具を無理矢理奥へとさらに突っ込んだ。 丁度子どもを膝に抱き上げ、背後から抱きしめているような姿であるから、手で押し込む形になってしまったけれど、今度この玩具を使う時は足で蹴り入れてやろうと思う。 それくらいでなければ、この化け物は満足しないに決まっているのだ。 首を仰け反らせて、声にならぬ悲鳴をあげる。 肩口に黒髪が押し付けられ、その柔らかさに董奉は口の端を釣り上げた。 米神に口付けを落としながら、胸元へ這わせていた手指に思い切り爪を立てる。 ガクン! と身体が揺れ、化け物が瞠目した。口唇が戦慄いているのが、背後からですらわかる。 術を施したままの指先で力をこめて引っかかれれば、当然の反応だろう。 嚥下しきれぬ唾液で噎せたのか、げほげほと荒く息をつくけれど整える暇など与えてやる気は無い。 それになにより、そう時間は無いのだ。この化け物と遊ぶ時間は、限られている。 「思徒様」 声をかけ、なにと問われる前に膝の上から化け物を放り出す。 両腕を戒められ、内臓に玩具を突っ込まれて足に力の入っていない相手は当然のように無様に床へ伏した。 溢れた腸液や血液、精液など。 採取する必要もなく、董奉の衣類を汚している。舐めて綺麗にさせようかとちらと思ったけれど、それはまたの機会にすれば良いと思いなおした。 「実は、そろそろ老爺に呼ばれる頃合でして。これで、失礼いたします」 「嗚呼そうか。この悪趣味なお遊びもこれで終いだ、とっととこの鎖を解け」 「何故です?」 「なに………?」 「間違えるなと、言っているでしょう。思徒様」 伏していた身体を起こそうとする肩を踏みつけ、床へ這わせたままにする。 衝撃で額を打ち付ける音が聞こえたけれど、構うことは無い。 代わりに、ちゃんと、こちらを向けられるように、革靴で化け物の顎下に革靴を差し入れ、向かせてやった。嗚呼、なんと好待遇なことか。化け物風情に。 「ここでお待ち下さい。そのままの格好で」 「ふざけるな………!」 「えぇ、ふざけておりませんよ? まだ、調教は終わっておりませんから」 にこりと。笑顔を向けてやる。 憎悪の篭った瞳で、爛々と睨まれるけれど。 それでも、この恍惚は拭えない。 「在那兒跪下了,請等候著。思徒少爺」 美しい芸術品を、玩具に出来る。 これ以上私を楽しませるものなど、ありはしない。 *** 文句言わせたいがために、口枷させなかったけど口枷させたのも書きたいなぁ。「玩具人的言詞之類沒有必要」とかって董奉に言わせたい。 |