殺したい衝動が収まらない。
 愛しい愛しい。
 愛したい衝動が収まらない。
 殺せ殺せ。
 嗚呼、愛しい愛しい殺せ殺せ。
 内側から声が聞こえる。
 愛しい愛しい殺せ殺せ。
 戯れに鎌を振るった。
 殺すことが可能な鎌。ホーミング機能付ナイフも良かったが、これもなかなかどうして使い勝手が良い。
 奪い取った甲斐が、あるというもの。
「どうかしたのですか」
 同僚、というには聊か語弊のある彼岸人の声に、笑顔を向ける。
 嘲りにはほど遠く。
 親近感からは永遠よりも離れた表情。
 本来、芝怜一朗という人間は敬意を持たれるような人格ではない。
 有能であろう、優秀であろう。
 だがそれと、人間性が優れていることはまた別の話なのだ。
 ただ万人が認めず、芝自身も態々己の内面を曝すほど愚かではないというだけで。
「殺してくるわ。ゾンビの連中」
「はぁ」
 曖昧な言葉で頷かれる。
 死神がゾンビを殺すことは当然なのだ。否やはない。
 見れば殺したいと思う。
 それは、ゾンビが人間を喰らいたいと思うことと同じだろう。
 本能。
 生きる為に、直結している様々な事象の一つ。
「嗚呼。なー、チカちゃん?」
 殺したい殺したい。
 愛したい愛したい。
 嘘偽りなく、虚偽もペテンも何もなく。
 根源的に、求めている求めている。
 愛しい愛しい、殺したい殺したい。
 同率で、過不足なく、感情は綺麗に天秤を保つ。
 死神の本能に身を明け渡すことなく、死神芝は夜を待った。
 愛しい愛しい。
 殺せ殺せ。
 内側の声に身を傾けず、嗚呼愛しいと、呟く声音が。
 月を殺す。


***
 芝チカ。中学の頃もだけど、死神化した後のほうが割りと好みかも。
 話的に作りやすい。(それか


愛しい衝動




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