無意味に、大丈夫と言っているわけではないと男とてわかっていた。
 苛立ちは当然ある。けれどそれ以上に、細い腕は抱き心地が悪くて大丈夫かこいつはと、怪訝な想いを抱いてしまうほどだ。
 するりと、頬に触れるのは肉で皮膚で熱である。反対の手には、なにも通ってない。無機物なのだから当然か。
 それでもボンゴレの技術力の粋を極めれば、サイバネティクスの類でなんとかなりそうなものだったがそれは銀色が拒否したので研究所には細胞のひとつも送っていない。
 風が揺らめかせる袖口は、つまり彼の覚悟で忠誠で陳腐な言い方をすれば愛の証明なのだ。もっとも、男は無償に捧げられるそんなものを信じる心は随分昔に明後日の方向へ捨て去ってしまったけれど。
 銀色の髪を、雨だれのように流す相手は気にしないで捧げ続ける。
 自分の影に自分の瞳に。
 膝に乗り上がることなど、許可をした覚えは無い。だが、銀色は軽やかでしなやかな身のこなしで男の膝に乗ると(それにしたって軽いと思っていたら、どうやら体重を上手い具合に散らしているらしかった。どれだけ無駄な技術を習得しているというのか、このカスは)、骨と皮と幾ばくかの肉しかない腕で男の頭を抱いた。
 そうして、掠れた耳障りな声音で言う。

「大丈夫」

 なにが、なぜ、そんなことは、空っぽの頭には無いのだろう。
 何もわかりはしないくせに、銀色はザンザスに一番必要なものをいつだって無意識に理解して捧げてくる。
 そんな無条件、知らないから。
 苛立ちもある、憤怒もある。けれど、マイナス感情以上にこの愛から逃れるのは難しい。
 だって、たぶん、ずっと、欲しかったのだ。

「大丈夫だぁ、大丈夫。……大丈夫だぜぇ、ボス。……ザンザス」

 愛しているわ、なんてキスはいらなかった。
 世辞ならば、数多く抱えている愛人から塵でアルプス山脈が築けるくらい貰っている。
 そうではなくて、そうではなくて。

「アンタの髪、硬ェのなぁ」

 どこか楽しそうな声音。目の前を紗のようにかかる銀色を払いのけるのは惜しく、目だけで顔を伺おうと動かした。
 ゆるく撫ぜる体温の低い指は白く、黒髪の中で浮いて見える。
 灰青と赤が交ざれば、銀色と白で構築されたような相手が小首を傾げた。
 頭を抱かれていたまま体勢を直したわけだから、いくらかは指からすり抜けていってしまう。けれど、気にすることなくスクアーロは薄く笑っていた。
 愛しているのキスも、無意味な愛の言葉も、慈愛も、情愛も、いらなかったから。
 多分、こうやって、無条件な腕が欲しかった。
 欲しかったのだろうと、男は夢想する。
 夢を見ながら、赤い瞳を伏せた。



***
 オチがわからなくなって逃げた。
 多分、争奪戦後+6くらい。
 私のボス観=マザコンでファザコンで無意識ネグレクトかまされたDV男。(どんなよ


妖精の死




ブラウザバックでお戻り下さい。