「あなたは、突き放すべきでした」 みんな大事、なんて、子供にとっては詭弁にすぎない。 子供は、一番を欲しがるイキモノだ。 ましてそれが、母親の狂気に巻き込まれた幼子なら尚のこと。 「あなたは、愛するべきでした」 誰よりもなによりも、第一に彼を考えるべきだった。 血縁など関係ないと真実を告げて、それでもなお、世界でなによりも愛しているのだと。 キスをして、ハグをして、愛しているというべきだった。 薄い偽善ではなく、上辺の慈愛ではなく。 彼に与えるべきだった。 「……君は、まるで子供をもったように語れるね」 九代目と常は言われる老爺は、どこか疲れたように笑った。 言葉に、骸はうすい笑みを浮かべる。赤色と青色の互い違いの瞳が、細まった。 「僕にとって、千種も犬もクロームもグイドも、わが子同然ですよ。あの子達のためなら、僕はなんだって出来る」 六道骸という僕は、彼らを守るために百も千も殺せる人間です。 けれどそれは、とても全うなことなのでしょう。 親が子供を守る、ただそれだけのことなのだから。 「あなたには、それが出来なかった。立場が邪魔をした? 同情だけで引き取ったから?」 「私は……」 「子供は、なによりも一番を欲しがるんですよ。嘘でよかったんです、愛していると言って本当さえあなたの口から与えられたなら。彼は、ゆりかごだって引き起こさなかったでしょう」 諦められるかは別としても、少なくともあんな大騒ぎは起こさなかったと思いますよ。 彼は、とても頭が良い。そしてなにより、ボンゴレという組織に誇りを持っている。 ぽっと出の綱吉君よりも、それは意識されている分強いでしょう。 「普通に考えて、そりゃあ怒り狂うでしょうねぇ」 頭が良かったことも、災いしただろう。 能力があったことも、災いしただろう。 そうして、自分がどれほど願っても手に入れられないものを、嫌がっている人間がいると知ったら。 普通、怒るでしょうよ。 まるで仕方のない子供を見つめるように、骸は笑った。微笑んだ、と表現しても良い。 「あなた、なにか勘違いしていませんか? 見目は確かに二十代も半ばを超えたいい大人ですが、その八年間は氷漬けでしょう。なら、いいところ彼の精神は十代半ば。血気に逸るし、反抗心は強い。自分が出来ることに対する理解もあるなら、ある程度は行動に予測がつけられるでしょうに。それを怠ったのは、あなたです」 「君のほうが、よりあの子を理解しているようだ」 「父親歴なら、負けない自信がありますよ。なにしろうちの子達は、みんな良い子揃いですから」 にっこりと、自慢げな様を隠すことなく骸は笑った。 笑顔を崩さない彼は、その実ちらとも目の前の老爺に心を許していない。 九代目もわかっているようで、重い息をつくに留まる。 「君は、今の私はあの子になにをしてやるのが最良だと思うかね」 「おやおや。偉大なるボンゴレ九代目が、僕のような犯罪者に相談ですか?」 「相談するのに適する者がいるなら、それが犯罪者であろうと商売敵であろうと、かまうことはないさ」 「クフフ、そういう物言いは実にマフィアらしい。開き直ることは素晴らしいですが……、そうですね、素直に助言してさしあげましょうか」 革張りのソファへ身体を沈めると、目を伏せた。 つい、と上向く頤。 相手を見つめることなく、青年は口を開く。 「なにもしないこと。愛していると言うのではなく、言い訳をするのではなく、見守る真似もしない」 「……それは」 「それが僕の考える最良です。争奪戦の処罰はともかく、それ以上は必要以上に彼に干渉しないこと。これ以上嫌われたくないなら、あちらから近づいてくれることを待つことです」 「辛いな……」 「八年、なんだかんだ言いつつ氷の中に放置した自称父親が、何を仰いますか」 彼を慕い、八年間ヴァリアーを解散させずに奔走させたスペルビ・スクアーロや他の方々のほうが余程彼を想っているというものですよ。 あっさり言い切れば、苦く、九代目は笑った。 「君は本当に、私が嫌いだね」 「クフフフ、あなたは敬意に値しますよ。マフィア嫌いの僕から見てもね。ですが、その日和見主義なところは虫唾が走ります。同じ、子を持つ親として、ね」 にっこりと、骸はやはり笑った。 *** ちちおやふたり。骸様は千種と犬とクロームちゃんとグイド君のパパーで良いと想っています。 |