「ねぇ、我が君?」 ロイドの声に、ルルーシュは顔を上げた。 黒の騎士団本部。 移動用トレーラーではない。 最早大所帯となった此処はそれでは、手狭すぎた。 いや、それでもなんとか支部などにわけていたけれど。 ここにきて、休息に物資人員ともに充実してきている黒の騎士団にはやはり手狭だった。 キョウトの援助があって、良かったとも思う。 していることは、戦争だ。 しかも、自分が仕掛ける側。いくらでも、武器弾薬その他あったほうが良いに決まっているが、いわゆるベース、ホームがあるのは心強い。 それはどちらかといえば、精神的なものに起因する。 少なくとも、フットワークの軽いトレーラーよりも、行き着けば確かに在る場所、というのは安堵を生むのに多大な貢献をしてくれているだろう。 その一室。 ここは、首領であるゼロと、C.C.、それに、ロイドしか入ることは出来ない。 親衛隊隊長であるカレンでさえ、この部屋に入ることは出来ない。 そんな室内に二人、なにをしているのかといえば次の作戦会議だ。 ロイドは技術者ではあり、伯爵位を持っている。ルルーシュも国家の上層部の動きは知っていたつもりだけれど、それでもこの十年近くで随分と様変わりしているはずだ。 其の点、例えば今日運び込まれた武器や弾薬、KMF基本フレームは、何処の皇子と結びつきが強く、シュナイゼルが何処と懇意にしていて、コーネリアがどの皇女を敬遠したがっているのかというデータは軍の最新鋭装備を抱えていたロイドの耳には入りやすい。 貴族は醜聞を他の人間の耳に入れるのを嫌がるが、他の人間と笑いあうのもまた好きな生き物なのだ。 社交界で、噂に精通していないなどありえない。 本来は女性の仕事だ、といわれそうだが、ロイドは生憎結婚をしていなかったし無意味な武勲自慢を聞いているよりはそれらの情報を知って、少しでもランスロットに貢献したかった。 まさか、ランスロットではなく主のために抱え込んでいた情報を活用できるとは思わなかったが、どちらにしろ同じことだ。 役に立てば、それで良い。 「いつまで学生を、なさってるんですかぁ?」 率直に言わせてもらえば、彼はこの二重生活にあまり乗り気ではない。 どちらの生活も、ボロを出せない。ならば、緊張を強い続けられることになってしまう。緊張の連続は、集中力に乱れを生む。ひいては、作戦の失敗に繋がりかねない。 学生生活でボロが出ても、命は危ない。其の場合、芋ずる式に妹であるナナリーの身にも危険が及ぶことだろう。主がなにを大切に(本当に、なによりも)大切にしているのかを知っている騎士は、せめてどちらかにしましょうよう、と唇を尖らせた。 「そうだな、そろそろ限界だとは思っていたから」 学生はやめるよ。 ロイドのほうを見もせずに、ルルーシュはノートパソコンを無言で叩いていく。 その姿は、あまりにも変わりはなかった。 「枢木少佐はぁ、どうなさるんですかぁ?」 「スザクか?」 「えぇ〜。学校、彼に少しでも"此方側"を理解して欲しくて接触する機会としても、使っていらしたんでしょぉ?」 「ん、そうだけどな」 でももういい。 諦めたような、呆れたような。 どちらともとれる態度で、ルルーシュはその顔色を崩さなかった。 なぁーんーでぇーでぇーすぅーかぁ〜〜? 相変わらず間延びした口調に、肩から力を抜くように呼気を吐いて、身体ごと向き直る。 「近くで笑われ。一瞬でも期待をもってしまう自分は、流石にもう惨めだと思うからな」 「我が君に限っては、そぉんなことありませんよぉ」 言葉に、ありがとう。とだけ返してまた作戦概容のシュミレートに戻る。 じっと美しく動く指先を、見やった。 決めた覚悟の先が、なんであろうと良いとロイドは思う。 だって彼が主だから。 それだけで、従う理由は充分だった。 もう期待はしない、手向かうなら殺す、刃向かうなら殺す。 友達だけど。 友達だから。 その覚悟は、ロイドにはやけに綺麗に見えた。 *** タイトルがよくわからない。 おかしい、なんか妄想癖のある神楽耶ちゃんの話を書こうと思っていたのに。 |