二人は二度ともう巡り逢えないの





 くるくると。空が回っていた。
 高いビルから落下する。空の階、満天の星が見えるに違いない。
 今は青色。
 くるくると。空が回っていく。
 高いビルから落下する。どれほど高い場所だって、月には腕は届かない。
 この手は短い。
 くるくると。空回っていく空。
 高いビルから落下する。風は撫でるのではない嬲っていくのだ。
 身は今ひとつに。
 落ちていく、落ちていく。
 酷く高いところから。落ちていく、落ちていく。所詮どれほどの力を有しようと、我が身は肉の器から脱却しきれぬ。
 故に重力に逆らう術を知らない。
 落ちていく、落ちていく。
 お前の嘆きなど知らぬよう、嗚呼もう。泣かないでくれ。なんて耳障り。
 落ちていく、墜ちていく。
 未練を残すなど、したくはないのだから。


 ざざー、ざ。ざざ。
 テレビの砂嵐のように。
 視界が切り替わる。黒から、白へ。
 途中で、鮮やかな色を見た気がする。
 グリーン。
 いや、ライトグリーン?
 もしくは、ベリルだろうか。
 わからないまま、引き戻される感覚。

 ざざー、ざ、ざざ。ざざ――――――プツ。



 果たして、笑っていたのは彼だったか彼女だったか。


 車のクラクション。
 一瞬の幻視、強く引かれる手、今自分はどこにいる。
 握られた痛みが宿る手、意識は引き戻されて。
 忘我の体から我に返る。
「大丈夫? ルルーシュ」
「………カレン?」
「………そこでどうして疑問符をつけるのかしら。あなた」
「いや、えっと。いや、なんでもない」
「そ。はやく行きましょう。ナナリーはともかく、ユーフェミアを待たせるとコーネリアまで怒るわよ」
「あぁ、そうだな。急ごう―――え、どこへ」
「ちょっと大丈夫、本当に。熱射病? まさかね。今、春よ。陽気でボケたなんて、あなたらしくなくて笑えるわ」
 辛辣な中に、心配を滲ませる言葉。
 いつも通り、知っている彼女通り。
 おかしいのは、自分。
 自分のほうだ。
「ルルーシュ? ミレイさんに遊ばれるのが気が重い、っていうから、知り合い総動員したんでしょ」
 ほら、はやく行かないと。
 余計からかわれるわよ。ずんずんと進む彼女は力強い。
 病弱ではなかったかと思い返し、何故そう思ったのか忘れた。
 夢の残滓が纏わりついている、少し粘ついた感覚。
「なぁ、カレン」
「なに?」
「君は、俺の傍にいたんだよな」
「ちょっと。幼馴染にそんな確認とるなんて、どういう了見よ」
 半眼に睨みつけてくる彼女。
 赤色の烈しい、優しい、母思いの少女。
 幼馴染の彼女は、母親同士が知り合いという縁で知り合って。
 従姉妹のユフィや、コーネリア姉とも知り合いだ。
 ミレイはひとつ年上だけれどやはり同じ幼馴染で、どうして俺の周りには女性しかいないのだろうと少々嘆く。
 それに、贅沢な。とふざけて笑う学友の姿も思い返される。
 クラスメイトのシャーリーや、クラス違いだがよく実験で逢うニーナも思い出せる。
 みんな思い出せる。
 けれど喪失感が残っている。
「ぼーっとしないっ! 暑さでやられたのかしら? ルルーシュ、ただでさえ頭とその顔しか使い物にならないんだから。莫迦にしちゃ駄目よ?」
「お前な……。いい、なんでもない」
「そう? まぁ、具合が本格的に悪くなったら言って頂戴。病院まで、担いで行ってあげる」
 言う彼女ならば、本当に同年代の少年一人程度であれば問題ないだろう。
 趣味が筋トレであることを、ルルーシュは知っていた。
「なんでもない、って。白昼夢を、見ていたみたいだ」
 眼を覚ました現実には、喪失感はあってもこれが本物。
 だから、なにも無かった。
 この世界で、二度と会うことはないだろう。
 名前も忘れた"誰か"。



***
 微現代パロ。どちらかというと転生ネタ。
 死に別れて、二度と会わない。逢えない。
 タイトルは「黄昏の/海」という曲の歌詞から。感覚小説でごめんなさい。




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