彼女のいない朝




 カーテンはきっちりと閉めたはずなのに、気がつけば明かりが差している。
 朝の光。
 身体を起こす。
 隣の女はまだ眠っていた。チーズ君を抱きしめて、とても心地良さそうに眠っている。
 一人分のスペースが空いたことに、気がついたのだろう。
 広々と四肢を投げ出した。
 それで、もう眠る場所は無くなる。最初から二度寝なんてするつもりはなかったけれど。
 ベッドから完全に抜け出して、シャワーを浴びに浴室へ向かう。
 介護用の風呂は、ナナリーのためだった。
 せめて少しでも筋肉が殺げるのを妨げたり、血行を良くするためにという配慮だ。
 熱いシャワー頭から浴びて、それで少しずつ世界は音と色を取り戻す。
 彼女はもう、俺を知らないだろう。

「……おはよう、シャーリー」
「あ! おっはよ、ルル! 早いのね!」
「嗚呼。シャーリーは部活か?」
「うん、筋トレしないと。記録会近いし」
「そっか。頑張れよ」
「うん! あ、ねぇルル!」
「なんだい?」
「あの、あのね。今日、生徒会に出る?」
「出るよ。会長、また書類溜め込んでるからな」
「私も行くから!」
「え。でも、記録会、近いんだろ?」
「でも出るの! じゃあ、会長に伝えておいてね!」
「わかった」
「絶対行くから、ちゃんと待っててね!!」

 ぶんぶんと大きく手を振って、分かれる。
 そう、それは別れではないのだ。
 別離ではない。ただ、プールか校舎かの、違いだけ。
 俺は君を知っていて。
 君は俺を知っていて。
 それでおしまい。教室に戻れば、君は慌てて入ってくる。
 丁度始業の鐘が鳴る、三分前。
 リヴァルが、笑いながら手を振る。
「よ、毎朝お疲れ」
「まにあったぁ〜」
 隣の生徒にも、笑いながら対応して。
 教師が来れば、真面目に授業を受ける。
 平穏の代表、平和の代名詞のような、学園の日々。


 悲鳴、忘れたくないと言われても。
 忘れさせることしか、出来なくて。
 それなのに君に助けられた。
 また。
「はじめまして」
「はじめ………、まして」
 やり直せない。時間は積み上げてこそ時間。こんな短時間で、以前のように接しようなんて無理がある。
 だから、はじめからはやり直さない。
 違和感のないように、接触して。そして、分かれれば良い。
 別れれば良い。
 なのに、まだ覚えている。
 日が暮れかけた、オレンジ色の世界。腕の中に抱きしめた君の温度。
 まだ、忘れないままだ。
 夜の慰霊碑の前、藍色の世界で告げられた、一筋の光。


「朝は、きますよ」



 でも、君がいた朝はきっともうこない。



***
 思った以上に女々しくなりましたorz
 シャーリー可愛いよシャーリー。恋する女の子は可愛いから大好きです。
 彼女はこれからなにをどうするのか気になる……。





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