魔女編




 朝焼け。
 日差しは、オレンジ色で昇る前に、夜空を押し上げる白い光に似ているのだ。
 今日も今日とて、それを見つめていたルルーシュは、窓から遠慮もなにもなく入ってくる魔女に肩を竦めた。
「お前、またか」
「私に注文をつけるな」
「扉があるのに、どうして窓からなんだ」
「ふん。私は魔女だからな。窓からでも問題ないのさ」
 特にこんな高いところをわざわざ昇るつもりはない。
 言えば、きちんとエレベーター完備だぞ。という、情緒もなにもブチ壊す発言が部屋の主から零れた。
 日夜の鍛錬と称し、螺旋階段を延々と使っているのがカレンとスザク。
 反対に、無為に体力を消費する必要は無いと言ってエレベーターを使っているのがシュナイゼルとロイドである。
「なぁ、ルルーシュ」
「なんだ」
「お前、王にならないか」
「またその話か。しつこいな、お前もスザクも」
「あんな子供と私を一緒にするな。それで、どうなんだ」
「俺が此処を出れば、ナナリーはどうなる。あの子は、病院にずっといるんだぞ」
「医療のスペシャリストでも揃えてやろうか」
「お前に揃えられるくらいなら、自分で探す」
「やる気じゃないか」
「その時がくれば、というだけの話だ」
「ふん。だが、一生そんな日はこないかもしれないぞ。お前を偏愛している兄は、お前を留め置くためには手段を辞さないようだからな」
「シュナイゼル兄上が、ナナリーになんらかの干渉をして退院を遅らせているのくらい、わかっているさ」
「ほう? じゃあどうして、こんなところで大人しくしている」
「それでも、今ナナリーに安全を与えられるのはあの人しかいないんだ」
 だから、大人しくしている。
 身を潜め、牙も爪も無い、お飾り以下。人形の皇女としている。
「それよりもC.C.。言っていたものは」
「大体完了だ。流石にフレーム開発のアッシュフォードだな。貴様の計画書を一瞥しただけで、焼き払って作業に入ったぞ」
「その灰は」
「ちゃんと処理した」
「よし。完成まで、どれほどかかると言っていた」
「さぁな? あぁ、そこの息女からの連絡だ。次のシーズンでお逢いできれば幸いだ、とさ」
「そこまでは流石に無理か。……わかった」
 次の社交界の季節までになんとかしてみせるという、彼女に。
 ルルーシュはそっと微笑んだ。
 ならば、ドレスがいる。アクセサリの類も、どうするべきか。
 ずっと塞ぎ込んでいるという設定だ、ミレイに強引に連れ出されたという脚本が一番望ましい。
 そういえば、伝えておこうとメッセンジャーを担う魔女は無表情に頷く。
「ルルーシュ」
「なんだ」
「王になる気はないか?」
「しつこいな、お前は」
「そうさ。私は、C.C.だからな」
「口の減らない女だ」
「それはお互い様だろう」
 なぁ? 同意を求められれば、どうだったかなどと口の端を歪め。
 そうかもしれないと、笑った。
「C.C.。王になど興味はない、だが。この国のシステムは、変えなければ何れ全てに支障がきたす」
 そうなる前に。
「お前が変える、と?」
「俺はそんな大それたことは考えていないさ。だが、警鐘を鳴らす人間は今のこの国に必要だ」
 黒い髪が、ゆらりと揺れた。
 朝日にきらきらと輝く髪は、そのまま彼女の身を飾るものにも似ている。
「国を壊すなんて、恐ろしい真似はしないさ。ただ、警鐘を鳴らすだけ。本当に、それだけだ」
 微笑む紫色の瞳は、朝日に追いやられても尚。
 時が来ればその場を支配する、夜に似ている。
「その時になったら、その鬱陶しい髪、私に切らせろ。ルルーシュ」
 言われれば、お前の髪だって長い。と、どこか子供じみた反発を漏らして唇を尖らせた。
 それに、違う、とC.C.は否定を示す。
 連れ出すのには、王子様が必要だろう? お姫様。
 笑いながらルルーシュが頷いたのは、なるほど。当然の結末か。



***
 C.C.様は共犯者。
 そしてやっぱり王子様で。男前なんですもの彼女!!
 ルルは、人形の振りをする裏でアレコレ画策。





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