気配に気付いた時には、既に居た。 特段、消すのが上手いわけではない。 紛れるには、此処は人気が無さ過ぎた。 だからどうしていつも気付くのに遅れるのか、ルルーシュはわからない。 其処に居る人物は、気付かぬなら気付かぬままで良いと思っているからかもしれない。 恭しく――いっそ、呆れるほど莫迦丁寧に、その男は礼をしてみせた。 ルルーシュは、そっと窓際から微笑んだだけでその礼に声をかけることはなかった。 男はそれもまたいつもの通りと、勝手知ったる塔の一室であるルルーシュの私室を歩く。 弾むようにしながら、その実欠片も足音を立てないで。 「―――ロイド」 「はぁい?」 紅茶を差し出され、それがこの部屋にある葉ではなく、彼が勝手に持ち込んでティーパックの代物だと気付いてルルーシュはそっと笑った。 彼にゴールデン・ルールを護らせようなんて、思っていない。 とはいえ、流石にティーパックはどうだろう。というのがルルーシュの意見である。 無論、受け入れられたことは数少ないけれど。 「国は、どうなっている?」 「如何、とはぁ?」 「―――少しは、落ち着いたか」 「いいえ。どこも。どっこもですよぉ、殿下」 「そうか」 「はぁい」 それからまたしばらく、沈黙に落ち着いた。 塔の中は、酷く静かだ。 あらゆる雑音が、この部屋には入ってこない。 それが配慮なのか、隔離なのかは意見が分かれるところでもある。 「ミレイとは、仲良くしているか?」 「えぇ。そりゃあもぉ。彼女、イイ理解者ですからぁ」 「お前達の子供が見られないことが、残念だな」 「仕方ありませんってぇ。だって僕ら、夫婦で同盟者ではあっても、恋人じゃないもん」 「いい歳をした男が、もん、とか言うな」 「えぇ〜」 「反論禁止」 「はぁい」 渋々といった様子で頷くロイドの髪を、ルルーシュはそっと撫ぜた。 愛しそうに、しながら。 本当に愛しそうに、しながら。 それが仮初であることが、ロイドには少し哀しいけれど。 彼もまた、彼女と恋仲になりたいわけではないので、言わずに置いた。 「ロイド」 「はぁい?」 「来てくれてありがとう。少し、落ち着いたよ」 「あっはぁ〜。また枢木少佐がいらしてたんですかぁ?」 「知ってたんじゃないのか? お前が来る時は、いつもそうだったからてっきり」 「偶然ですよぉ。ぐ・う・ぜぇん!」 狙った覚えはありませぇん! 言いながらも、ロイドは笑っている。 彼の真剣な顔も、勿論見たことはあったけれど。 それでも、こうしてふざけた様子であることが一番多い。 ルルーシュには、ありがたいことだった。道化の振りをしている彼を前にすると、胸に宿るなにかがほっと軽くなる。 「さぁ、てっと。名残惜しいですけど、僕は行きますねぇ」 「ああ。ミレイによろしく伝えてくれ」 「あの人にはぁ?」 「どうせ、いらっしゃる。特には無いな」 「かしこまりましたぁ。……ねぇ、殿下ぁ」 「うん?」 「あなたがそうして笑ってくださる為でしたら、僕はいつでも馳せ参じますから。呼んで下さいねぇ?」 「嗚呼、ありがとう。ロイド」 「いえいえぇ!」 だってそれこそが道化師の望みなのですから!! *** ロイドさんは、ルルのちょっとした清涼剤的に。 ミレイさんとは既に婚姻していますが、恋愛よりも同盟関係の色が強いです。 |