明日の話が決定事項




 彼から零れた涙は、とても美しかった。
 はらりと落ちた涙は、次にすぐさまふたつみっつと溢れ出し。
 すぐに、雫の道を作り上げた。
 美しい葡萄色の瞳。
 ワインに到る過程を見やるかのような、瞳。
 そこから流れ出る雫の色が、無色透明であることがスザクには不思議だった。
 涙を流していることよりも、そちらのほうがスザクには不思議だった。
「ごめん、ごめん、スザク」
 謝る彼。
 謝り続ける彼。
 どうしてだろうと、スザクは困惑する。
 好意であった。二人を結んでいるのは、好意だった。
 親しい間柄だった。それは、双方に近しい友人達ならば誰もが認めてくれるだろう。
 ルルーシュ・ランペルージと枢木スザクの、仲睦まじさは少なくともクラス内の者ならば知るはずである。
 けれど彼は泣いている。
 うれし涙とは、到底思えなかった。
 涙を流していることに対する謝罪とも、思えなかった。
 どうして泣いているの。
 問い掛けることも出来ず、スザクはおろおろと彼を宥めようとするばかりだ。
 溢れる雫の量に反して、彼は静かだった。
 当然といえば当然だけれど、子供のように泣き喚く愚も無様も犯すことは無かった。
 はらはらと流す静かな涙。
 震える肩が、酷く扇情的であり儚い。
 そんなことを言えば、ルルーシュはきっと怒るだろうけれど。
 場にそぐわず、スザクは思ってしまった。
「ねぇ。ねぇ、ルルーシュ。そんなに嫌だった、ごめん、ごめんね」
 困らせたかったわけではないのだと。
 スザクは一生懸命になって、言葉を紡ぐ。
 ごめん、ごめんね。
 困らせる気なんて、なかった。
 ただ、君が好きだ。好き、君が好き。
 大好きなんだ。
 それを知って欲しかった。同じ想いを、抱く対象としてみて欲しかった。
 繰り返すスザクに、ルルーシュはごめんと呟くばかりだ。
「なんで謝るの? ルルーシュ。ねぇ」
 謝るというのは、嫌いということ? それとも、そんな相手とは見れないということ?
 ねぇ、教えて。こたえて。どうして。
 繰り返し問い掛けるスザクの腕が、ルルーシュを包もうとしたところで。
 泣いていた本人が、その腕を拒んだ。
「ルルー、シュ」
「ごめん。ごめん、スザク。俺は」
 選んでしまったのだ。
 もう。
 もう、選んでしまった。
「誰を。僕にも、言えない人?」
「違う。もう少し、早く再会できたら良かった。そうしたら、こんな風に無く無様な姿を晒さなくて済んだのに」
 ごめん。
 繰り返される言葉は、けれど確信には触れない。
「ルルーシュ?」
「俺はもう、王になると決めてしまった。お前の手はとれない。俺は王になるから、国を導くものになるから。王妃もいらない。俺は国に嫁ぎ、国は俺に嫁ぐ」
 俺は国の物となる。
 孤独の王となることを、決めてしまった。
 だから、ごめん。その手はとれない。
 その手をとれない。
 ごめん。
「ココロもあげられない。それは国を導くのに必要だから。身体もあげられない、肉がなければ国民を導けない」
 なにもあげられない。
 心も身体も渡すことが出来ない。
 感情をそぎ落とした生き物なんて、国民はついていかないだろう。
 だから感情もあげられない。
 なにもあげられない。お前に。
 好きだ、好き。スザク、俺はお前が好きだ。
 けれども。
 もう決めてしまった、だからごめん。
 ごめんスザク。
 本当にごめん。
 繰り返し紡がれる謝罪の言葉に、スザクは抱きしめる腕は固まっていた。
 既に彼は国の物だった。
 彼は孤独な王だった。




***
 きっと騎士として支える立場になると思います、スザクは! でも恋仲ではないのです。
 恋人で愛人で夫で妻は国。
 ……ルル女体化したほうが、良かった気がします。(くぅ





ブラウザバックでお戻り下さい。