それは、土曜日の昼下がり。 珍しく活動もなく、生徒会での仕事をひと段落つけてリビングで愛しい妹とルルーシュが寛いでいた時だった。 鳴り響いたのは、当然ながらクラブハウスのドアノッカー。 はて来客の予定でもあっただろうかと? 同じテーブルにいたC.C.とマオに動かぬよう言い含め、ルルーシュは玄関へ向かった。 本来ならば咲世子の仕事であるが、彼女には三人の傍にいてもらう。 自分達の素性を知っている彼女がもし人質にでもとられたら、それこそ危ういためだ。 打算を働かせながら、怜悧な面立ちが玄関の前で急に笑顔になった。 とはいえ、皇室御用達ロイヤルスマイル。言ってしまえば外面用である。 「はい、どちら様ですか。こちらはアッシュフォード学園の敷地なのですが」 まさか迷ったわけではあるまいと知りつつ、玄関口に立ったまま答えた。 覗き窓からも見ずにドアを開けるなど、愚の骨頂である。 「うむ! 知っているぞ、ルルーシュ!!」 え、この声。 思わずルルーシュは、固まった。 勢い込んで、覗き窓に顔を思い切り近づける。 金色の髪も、優男風の容貌も、ちょっと装飾が過多なところも、無駄になんでか一輪薔薇を手にしている姿も。 知っているものだった。 だが、何故奴がここに!! 「こらルルーシュ! 私を扉口で待たせるとは何事か! 私は賤しくも神聖ブリタニア帝国が第三」 「あああああああああ兄上! クロヴィス兄上、アンタなんでこんなところにいるんですか?!」 全てを名乗らせる前に、耐え切れずルルーシュは扉を開いてそれを遮った。 アンタ扱いなのが、彼の混乱を如実に語っていると言えよう。 だが、そこをクロヴィスが追求することは出来なかった。 ルルーシュの混乱と困惑の声ゆえに隠れていたが、確かに響いていたのだ。 ゴン、という音が。 「………兄上?」 必死こいて開けたわりに、目の前に兄はおらず。 嗚呼よかった。幻影だったのか。俺も黒の騎士団の活動で疲れてるしな、とか思おうとしたのだが、矢張り駄目だった。 足元には、勢い良く開いてきたせいでモロにぶつけた額を押さえて涙ぐみながらしゃがんでいるクロヴィスがいる。 「なにをなさっているのですか、クロヴィス兄上」 「……その前に、言うことはないのか」 「………その、殺すような真似をして、」 「そうではない!」 「え」 違うのか? え、恨み言言いに来たんじゃないの? ルルーシュの紫色の瞳が、困惑に瞬いた。 がばっ! と立ち上がり、そこでまた鈍い音。 今度は、屈み込むのが二人になった。 其々、顎と頭上を押さえ込んでいることからなにがあったのかを悟るのは容易いことだろう。 戻ってこない兄を不審に思ったのか、それとも騒いでいる兄を珍しいと思ってか。 ナナリーが、車椅子を動かしながらやってきた。 「お兄様? どうなさったのですか?」 人の声が聞こえましたけれど。お客様ですか? ほやほやと柔らかい声音に、なんでもないよと言いたいのだが、何でもなくない為に言うに言えない。 顎を押さえながら震えていれば、ルルーシュより先に復活したクロヴィスが満面の笑みを浮かべて兄を突っ切り妹へ寄った。 「久しぶりだな、ナナリー」 「え、その声………」 「うむ。お前達の兄、クロヴィス・ラ・ブリタニアだ」 「クロヴィスお兄様………!」 感無量、といわんばかりの妹へ、嗚呼遅かった。とルルーシュは敗北を悟る。 「クロヴィスお兄様、何故こちらに……。いいえ、深いことは聞きません。こうして生きてお逢い出来たことを、なにより嬉しく思います」 「ナナリー、随分と慎ましいレディに成長したのだな。マリアンヌ様にそっくりだ」 「まぁ………! あ、このようなところで、申し訳ありません。どうぞ入ってください、今、お茶の用意を致しますから」 「そうさせて貰おう」 「あの、お兄様? 大丈夫ですか……?」 「大丈夫だよ、ナナリー」 ちょっとまだ顎は痛いけれど、それでもマシだ。 良かった、と微笑むと、妹は上の兄を誘ってリビングへ行ってしまった。 嗚呼。再度敗北感に打ちひしがれる。 「ルルーシュ」 「……なんだ」 いつの間にか立っていた灰色の魔女を、ちらりと見上げる。 尊大な風を崩すでもなく、彼女は堂々と言い切った。 「人数が増えたな。大人数にはピザがいいぞ」 はい。と宅配ピザのチラシを渡す。 とりあえず、Lサイズ二枚もあれば足りるだろうかと、ルルーシュは空しく思った。 王の力は、孤独にするどころかなんか色々呼び込むものらしい。 *** Cの世界より愛を込めて、の続きというかなんというか。 クロヴィスお兄様、追い出されてきました。やっと静かになったと、親衛隊の皆さんはほっとしているでしょう。(ぇ |