りとる・りとる




 カレンには夢がある。
 それはちっぽけな夢だ。
 本当ならば、夢ではなくただ時間がたてば自然と現実になっていくだろうこと。
 けれどカレンには夢だった。
 叶う可能性がひたすらに低い、夢。
 母と暮らす。
 出来れば、兄の墓を庭に移せるような家がいい。
 日本で母と兄と三人で住んでいた家を、もう一度再現したい。
 それで、天気の良い日は母と一緒に洗濯をするのだ。
 料理でもいい。
 一緒にして、失敗したらコツを聞きたい。
 そんな彼女に、母は微笑んで『好きなひとでもいるの?』と問い掛ける。
 真っ赤になって否定して、兄の遺影に向かいながらお兄ちゃんとしてはどう? なんて聞いてくれたらもう涙を流すだろう。
 カレンの夢は、そういう。
 本当にちっぽけなことだ。
「可笑しい、ですか」
 椅子の上で膝を抱え込んで、カレンは呟いた。
 優しい母、優しい兄。優しいひとたち。
 奪ったのはブリタニアだ。
 だから彼女は憎む。彼女の平穏を、取り戻したい一心で。
「ちっちゃい、夢ですよね」
 けれど本心からの夢、だ。
 叶えられないと思っていた夢。
 叶えるのだと我武者羅に走っても、現実はバイク一台調達するのだって難しかった。
 今やこのエリア最大の武装勢力だなんて、今でも信じられない。
 最新のKMFを駆って、彼女は戦う。
 それは全て、夢のためだ。
 自分の夢のため。
「我侭、ですね。私」
 他の日本人のためになれば、勿論良いけれど。
 同時に、自分の夢や、仕合せや、願いのために、彼女は戦っている。
 まだ成年にも達していない少女は、抱えた膝に頭を預けて苦笑を漏らした。
 少しだけ弱く見せても大丈夫だと思ってしまうのは、信頼の証だろうか。
「我侭です」
「―――そうでもないさ」
「そう、ですか?」
「嗚呼。私も、そうだ」
 小さな仕合せが欲しくて。
 小さな夢を叶えるために、戦うことを決めた。
「そう言っていただけると、嬉しいです。ゼロ」
「君と意見があうことは、私も嬉しく思うよ」
 仮面の奥で、彼が笑った気がしたものだから。
 つい、仮面越しに口付けてしまった。
 それは衝動というよりもなお優しい、同じ願いをもつ相手への祝福にも似た感情。
「……勝利の女神ではなくて、申し訳ありませんが」
「私は既に、悪魔と契約をしている。今更神には縋らない」
 だから、お前自身からの口付けは喜ばしいのだ、と。
 ゼロは低く笑いながら告げた。
 小さな願いをもつ二人の、小さな想いが何処へ導かれるのか。
 きっと明日の世界だけが知っている。



***
 ゼロカレ?! カレゼロ?(お?
 ほのぼのしいの書きたかったです。





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