りんごの木




 ここには大切なものが詰まっている。
 だからここに預けていくよ。
 ここには俺の大切なものが全て入っているから。
 だからここに預けておくよ。
 どうかこれを守っていてくれ。
 ここには大切なものが詰まっているから。
 だからどうかこれを。




 手渡された小さな箱。
 手の平より少し小さな箱は、持ち歩くのに多少不便なだけの大きさ。
 パイロットスーツで持ち歩くことは出来ず、軍服のポケットに入れられるわけでもない。
 ロッカーに放り込んでおけば、失くす心配をかける。
 そんな小さな箱。
 臙脂色の箱は、厚手の紙と布で出来た簡素な箱。
 1ドル程度にしかならないだろう、その箱は軽く。
 重みは恐らく、箱の分しかないほどに軽く。
 揺らしても、音も立たない。
 これっぽっちも。
 これっぽっちも。


 鍵などついていない。
 軽い臙脂色の箱。
 からからとも、かさかさとも、ころころとも。
 鳴らない箱。


「それなぁに? 枢木准尉」
「あ、」
 なに、と問われたら。
 なんと答えるべきだろう。
 迷って、友達から預かっているんです。そうとだけ告げた。
「ふぅーん。えいっ」
 ロイドが手を伸ばし、スザクが膝に抱いていた箱を取った。
 勿論彼の動体視力、反射神経、反応速度ならば軽々と回避出来たはずのものだったけれど。
 そうはせず、彼の手に委ねた。
 卑怯者、と、ロイドが声に出さず嘲笑う。
「ご開帳ぉ〜〜〜〜〜〜」
 開ける勇気も持たなかった彼とは正反対に、躊躇いなど欠片も無い、関係も関連もない男が箱の蓋に手をかける。
 果たしてそこには、


***
 何があったかは、まぁ各々で御願いします。
 私としては、空っぽ。
 もしかしたら紙切れ一枚だけ入って、「愛していたよ」くらいはあるかもしれないけど。






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