ゼロは言った。 『撃って良いのは、撃たれる覚悟がある奴だけだ』と。 それは、あらゆる物に置き換えることが出来ないだろうか。 奪って良いのは、奪われる覚悟がある者だけ。 殺して良いのは、殺される覚悟がある者だけ。 そんな風に、置き換えることは出来はしないだろうか。 もしもそれが可能だというのなら。 ゼロの言葉を肯定するのは嫌だけれど、結局自分はまた正しい道にあれるのではないかと考える。 その考えが、夢想かはたまた妄想か。 最早考えつけるものではない。 ただ、決意は揺るがない。 撃って良いのは撃たれる覚悟ある者だけだと、ゼロは言った。 ならば、 僕は撃とう。 僕は討とう。 君は僕の大切な人を奪ったのだから。 僕は君の大切な人を奪おう。 嫌だとは言わせない。 否だとは思わせない。 言ったところで聞く気はない。 君が言ったんだ、ルルーシュ。 クラブハウスは不気味なほど静かだった。 既に深夜である。 崩壊した租界の中でも、比較的軽症だったとはいえ此処も随分と被害があった。 その証拠に、足元の硝子や陶器の破片を時折踏む。 クラブハウスの生活空間は、ほとんどが毛足の長い絨毯で覆われバリアフリーとなっている。 それは、とりも直さずナナリーのためだ。 彼が大切にしている、妹のためだ。 総督府の副総督執務室が、全てユーフェミアのために作られた空間ならば。 クラブハウスは、ナナリーのために揃えられた空間だった。 彼の妹。緩やかで穏やかな箱庭に暮らしていたお姫様二人。 なにが違って、殺すことになったのだろう。 なにが違って、同じ妹を生かしているのだろう。 スザクは答えを出す気のない問答を続けていく。 知っている部屋の前に立った。 ノックはしない、必要ない。 ノブを手に、そっと押し開けば、カーテンを閉め忘れていたのか月明かりが鮮やかだった。 窓の前には、影。 車椅子に座り、ただひたと動かぬ少女を前に、スザクは躊躇わず銃口を向けた。 「スザクさん?」 「ナナリー、君を、」 「殺しにいらしたんですか」 「うん」 「そうですか」 少女は避ける術を持たない。 時間を稼ぐ風でもなかった。 スザクは銃口を向けたまま、動かない。 「なにか、言いたいことはあるかい」 「いいえ、特には」 「なんでとか、聞かないんだね」 「答えてくださるとは、思っていませんもの」 穏やかにナナリーは微笑んだ。 彼女は寝巻きで、スザクはパイロットスーツ。 どちらがこの部屋で異質かは、明らかである。招かれざる客人に、それでも高貴な空気をナナリーは崩さない。 「スザクさん」 「遺言?」 「いいえ」 「なに。聞くよ、ルルーシュにも、届けておいてあげる」 「いいえ、お兄様にではなく、貴方に」 「なんだろう。怖いな」 「もしかしたら、わたしはあなたを―――」 少女の言葉を少年が最後まで聞くことは無く、銃声が被り、その先を確かに聞いたけれど火薬の匂いに紛れてしまった。 上半身が崩れ、妙な横倒しの形になる。 鼓動の度に溢れる鮮血が、少女の寝巻きを汚していった。 長居は無用だ。今とて、軍務を抜け出してきたのだから。 ロイドは怒るかもしれない、セシルは心配するかもしれない。 たまらずに、駆け出した。 なにから逃げたいのか、わからない。 けれど走り出したい衝動にかられたのは、事実だ。 君は僕の大切な人を奪った。だから僕も君の大切な人を奪う。 君は僕の大切な人を殺した。だから僕も君の大切な人を殺す。 覚悟があってやったのだろう。 だから僕を恨まないで。 僕を憎まないで。 君がやったから、僕もやった。 それだけのことなんだから、僕を嫌わないで。 闇夜に白い姿が疾駆する。 鮮血を置いて、彼はまた戦場に戻る。 *** 「撃って良いのは〜」のアレ、好きなんですが使い道間違えた感が激しく否めません。 というか私は、枢木さんを悪人にしたいわけではないのですが。どうしてこう……。 監督、とりあえず枢木さんがゼロの正体知ったのかどうかそこだけでも教えてくださいorz |