コンパクト




 嗚呼まるで虫の羽音のようだ。
 耳障りこの上ない羽音のようだ。
 打ち払いたくとも、既に無理なことをルルーシュは知っている。
 嗚呼まるで虫の羽音のようだ。
 振り払いたいけれどそれをすれば、不興を買うことになるだろう。
 今更だとわかっていても、それに対してやる気力が既に尽きている。
 嗚呼まるで虫の羽音のようだ。
 振り回されるチェーンソーの音というモノは。



 C.C.とカレンが駆けつけた時、其処は既に終わっていた。
 はじまりに気付かなかった我が身をカレンは呪い、魔女は冷ややかに部屋の現状を見ていた。
 紅かった。
 赤かった。
 カレンははじめて、己が纏い、誇りってきた赤色を嫌悪した。
 その嫌悪と憎悪の感情をそのまま、男に向ける。
 手にしたチェーンソーは、既に鳴り止んでいる。
 けれど赤錆になりそうな液体は健在で、男を赤黒く汚していた。
「遅かったね、カレン」
 朗らかに笑う男へ、殴りかかろうとしたカレンの腕をC.C.が止める。
 振り払えるはずのそれは、けれどピクリとも動かせぬままだった。
「止めるな!」
「止めるさ」
「………!!」
「願いは叶ったか、枢木スザク。ルルーシュがただ只管愛した男」
「叶わないよ、駄目だ。全然駄目」
「そうか」
「C.C.、離せ!」
「断る」
「どうして!」
「お前が死ぬことを、ルルーシュが望んでいないからだ」
「………!!」
 ルルーシュ、ゼロ。
 守ると決めた、主。
 守る立場に据えてくれた、大切なひと。
 自分達を導いてきた、存在。
 それを、奪われたというのに大人しくしていろとはどういう了見。
 睨みつけようとしたけれど、先に金の瞳が押し黙らせるように睨みつけた。
「どうして、ルルーシュは僕を愛してくれないんだろう」
「愛していたさ」
「違うよ。僕はそんな愛はいらない」
「贅沢を言う男だ。愛されているという、事実は変わらないのに」
「変わるよ。僕はルルーシュだけを愛しているのに、ルルーシュは僕以外も愛してる」
 例えば、カレンだとか。
 言って向けられるベリルの瞳に、たまらず彼女は肌を粟立たせた。
 なんだ、今の感触は。
 根こそぎなにかを失った、死人の眼を向けられたと知って。
 薄っすらと、カレンはC.C.が己を止めた理由を悟る。
 向かっていけば、殺されただろう。
 実感として、はっきりわかった。
「僕はルルーシュだけを愛しているのに」
「我侭な男だ」
「違うよ。僕は、愛されたいだけだ」
「愛していたさ。たとえ親愛だろうと情愛だろうと友愛だろうと、お前を愛していた。お前を愛していたんだよ、枢木スザク」
 ルルーシュはお前を愛していた。
 なのにどうして、それをわかってやらないのだろうな。
 わかろうとも思わないのだろうな。
 愛されることばかりを、求めるのだろうな。
 いっそ可哀相なものを見る態度で、C.C.はスザクを見つめた。
「愛していたから、お前を受け入れたんだ」
 そんな姿になってまで。
 示す彼は、血溜りに転がり、既に瞳孔は収縮している。
 脈も息も止まり、生命活動は終わっている。
 終わりだけが進行形で存在し続け、それ以外は既に閉塞している。
「ねぇ、さっきからどうして過去形で君は語るの」
 僕が愛しているのだから。
 彼だって僕を愛している、でなければおかしいのに。
 スザクが、冷ややかにC.C.を見つめる。
 しかし歴戦の灰色の魔女は、怯むことなどしなかった。
 臆することなく、矢張り哀れなものを見やる態度で答える。
「既に過去の存在だからさ。ルルーシュは」
 失血と衝撃による死亡だろうか。
 最早肉塊と化した彼を、けれどスザクは認めない。
「違う。俺が愛しているんだから、ルルーシュも俺を愛し続けるべきだ。俺と同じ強さで、俺と同じくらいに、俺を、」
 愛するべきだと、愛さなければいけないのだと。
 自称、愛に飢えている子供はわめき続ける。
 どれだけ騒いだって、肉の塊が命を吹き返すことなどないのに。



***
 ルル大好きです、よ?(言わないと疑われそうだ。
 段々枢木さんは駄々っ子とか、駄目な子供とか、そういう認識に陥っている気がします。
 ルルがどういう状況かは、まぁ、悟ってください。(ひんとはたいとるです。





ブラウザバックでお戻り下さい。