ロイド・アスプルンドの世界の中心といえば、嚮導兵器Z-01通称ランスロットだ。 白に金のラインが入った、美しいボディ。 躍動する様は、鋼の騎士だというのにまるで生きているよう。 なにからなにまで首を突っ込んで、関与して、作り上げた。 それこそ、一日として離れることなく、意識を外すことなく。 例えば女性ならば、子供を産む機能を備えている。望んでいるかどうかは果てしなく別として、そういうイキモノというのが女性である。 逆を言えば、造る以外でなにかを生み出す能力を持たないのが男性体だ。 つまり、ロイド・アスプルンドに当てはまる。 だが、彼は作り出した。 鋼の白い騎士を。 白衣が、足元でぱたりとはためいた。 満足のいく品である。この騎士以上の物はいらない。 仮に造れたとしても、其の時は全ての応用をランスロットに注ぎ込むだろう。 結果的に別物だと誰かが言ったとしても、ロイドにとって白い騎士はランスロットである。 イキモノが進化するように、無機物だってチューンアップという名の進化が赦されているのだから。 独立進化など、いらない。 ロイドは、大抵の人間に言われ慣れているようにひどく子供じみた思考の持ち主でもあった。 ランスロットに、関わってきた。 それこそ、生まれる前とも言うべき計画段階から。 だからこその愛着である。勝手に進化されることも、確かに楽しいだろうが自分が関与しない、知らない部分があるというのは望ましくない。 好きなものだから知っていたい。 当然の感情だと、彼の研究者は胸を張るだろう。通り越さなければストーカーにもならず、在る意味非常に人道的な意見だ。 普段は突っ込み慣れている副官の彼女だとて、納得せざるをえまい。 ―――けれど。 一体、誰が想像出来よう? この男に。 言ってしまえば、ランスロット莫迦。の一言で終わってしまうロイド・アスプルンドに。 ランスロットよりも大切な者を、得た。などと。 現在、高度2000を運行中です。 定期的に入るアナウンスなど耳に入っていないように、足音も荒くスザクは走るように歩いていた。 第二皇子シュナイゼルが来た際に、特派の本部とも言えるべきトレーラーは浮遊戦艦アヴァロンに移された。 個人のプライベートルームも完備されているこの艦に、当然ながらロイドの私室もある。 更に言うならば、機密性の高さによりこの部屋は艦長であるシュナイゼルと副官のセシル、そして本人しか鍵を持っていない。 インターフォンなどという上等なものではなく、ノック式だったために、それこそブチ破る勢いでスザクはロイドの部屋の戸を叩いた。 「う〜るぅ〜さ〜いぃぃぃぃぃ。……なぁにぃ、枢木少佐ぁ」 君だって、朝までランスロットのデータ収拾のために起きてたんでしょー、なんで眠くないのぉ僕疲れてるんだけどぉ云々。 本当に眠いのだろう、間延びしている間隔が、いつもよりも長かったがスザクは構わない。 それは、室内に彼を入れることさえせず戸口でスザクを追い返そうという意図でも露だ。 「あの、ロイドさん、騎士を拝命した、って聞いたんですけど?!」 「そのことぉ?! あっはぁ〜〜〜! お〜め〜で〜と〜〜〜〜〜お! そ〜ぉなんだよ! 聞いてくれるぅ、枢木少佐ぁ!!」 ちょっと待て、さっきのメタクソ眠がって鬱陶しがっていた空気、どこへ投げやがった。 なんて、思うことはなかったが、突然の変わり具合にスザクが一歩引いた。今の瞬間で、心の距離は既に一光年ほど離れている。 「正確にはまだ、する、の段階なんだけどねぇ〜〜〜〜〜!」 「相手の皇族の方、って、シュナイゼル殿下ですか?!」 「冗談やぁ〜めぇ〜てぇ〜。僕とあの人は学友。そんだけ。忠誠誓うのなんて、予算大幅アップの時くらいだけでじゅぅ〜ぶん」 それ皇族批判にならないんですか。とは、矢張り言えなかった。 彼のテンションが先程から一転、高すぎるためだ。 こういう時の彼に、なにを言っても無駄だと既に学習している。 空気は読まない彼だったが、学習能力は低くない。 「じ、じゃあ、一体どなたに………」 「内緒。内緒。なぁーいーしょ」 「なんでですか?」 「知ってるぅ、枢木少佐ぁ。なんで、と、どーして、は、一日三回までなの」 「何時決まったんですか、そんなの」 「あっはぁ〜! たった今!」 悪意なんて無いような素振りで、ロイドが笑った。 「ロイドさん………」 「直ぐにわかるよぉ、枢木少佐ぁ。だからそれまで待っておいで」 ちゃんと其の時、自慢してあげるから。 脱力していたスザクには、冷たい男の瞳など見ていなかった。 数日後、ロイドは軍を脱走した。 他国同様、ブリタニアでも、脱走兵は理由如何関係なく射殺が赦されている。 特にロイドは技術者であり、その頭脳が黒の騎士団をはじめとした武装勢力に渡られてはたまらない。 殺すことを悔やむ声よりも、これ以上テロリスト達に戦力をつけさせてたまるものかという決定が、下されたのである。 だが、軍部が捜索兼射殺に乗り出すよりも早く、ロイドの姿はあっさり人の眼に触れることとなった。 「おやおや」 シュナイゼルは困ったような、仕方ないというような表情で、学友の裏切りを平然と見つめる。 放送ジャックのために途切れない、テレビ。 アヴァロンのメインモニターに映し出された映像を、立ち尽くしてみるしかスザクは出来ない。 街頭テレビでも、今は同じ映像が放送されているはずだ。 このエリアにいる全ての者に、それは見慣れた光景だろう。 スザクとてよく知っていた。彼こそがつい先日、こうしてテレビに映り、この映像通りのことをしていたのだから。 流れている曲は、ブリタニアの国歌でもエリア11―――旧国名日本の国歌でもなかったが重厚なクラシック。 『ロイド・アスプルンド。汝、ここに騎士の誓約を立て、我が騎士として戦うことを願うか』 『はい』 『汝、我欲を捨て、大いなる正義のために剣となり盾となることを望むか』 『はい。我が君』 差し出される剣は、胸の前に。 それを押されれば死ぬことを、スザクは知っている。 あれは模造刀などではないのだ。 騎士がする返礼は、ブリタニア式のそれではないけれど、それも当然。 これは、黒の騎士団の首領に膝をついているのだから。 ブリタニア式にする、必要がない。 立てられた剣を、そっと左右の肩に添わされる。 冷えた金属の質感を思い出して、スザクは知らずに頬に触れた。 『ならばその忠誠に、私は私の全てでもって応えよう。私は、汝、ロイド・アスプルンドを騎士と認める』 剣を差し出され、また鞘に戻した。 鍔の合う硬質な音が響く。 頭上を通る、腕がゆるやかに舞った。 これで、儀礼としては終了である。 ロイドの名を知る者は少なくても、アスプルンド家は伯爵だ。名も知られているはずだ。 ブリタニア人が、明確に黒の騎士団についた。しかも、伯爵家の人間が。 更に軍部の人間ならば、ロイドが軍人であることを知っている者も多い。 「あの、シュナイゼル殿下」 「あぁ、コーネリアかな?」 「はい。直接、コーネリア殿下からです」 「こちらに回線をまわして下さい。すみません、セシルさん」 「いいえ………」 躊躇いがちにかけたセシルだったが、シュナイゼルは構わぬ様子で手すりに隠されたコンソールを叩いた。 インカムをつけている間に、メインスクリーンを見やる。 そこには、拍手されているわけでも迎えられているわけでもないのに、ただいつも通りのロイドの姿。 「やれやれ。爆弾ばかり残してくれる友人に、―――」 後半の言葉は、コーネリアからのホットラインが繋がったために、シュナイゼルの口の中で消えた。 そんなに大切な存在だったなら。ランスロットさえ捨てて走ったのなら、認めるしかあるまい。 後始末が大変そうだと、シュナイゼルは苦笑を浮かべた。 *** 真っ白にしてみました、シュナイゼル兄様。 今回シュナ兄様書くとき、割りとルルをイメージしたり。ルルは、スザクがユフィの騎士になっても殺さずに捕虜にしようとしたりしたので。 相手が選んだ道ならば、それを認めるしかないなぁー、みたいな。23話でのあの驚きで、真っ黒に思えなくなってしまったんですorz 代わりに、「嗚呼、ルルのお兄さんだ」という意識が強くなってしまいました。 |