舞うように動くその様を見て。 スザクがあ、と短く声をあげた。 クロヴィスが崩御する前に制定されたという芸術週間は、ほとんどの教師に授業スケジュールを見直させるものとなった。 本日は、屋外にての写生である。 とはいえ学園内限定だ。 学外に出たがる生徒達もいたが、危険性がわからぬほど彼らも子供ではない。 頷きながら、敷地内に散らばっていった。 そんななかの中庭である。 リヴァルは、自身のバイクを写生すると言ってはりきって寮へ向かってしまい、シャーリーもまた女子達と楽しそうにしていた。 遠くを見やるような視線でこのあまりに平穏な空気を眺めていたルルーシュであったが、あげられた声に幼馴染のほうへ向く。 「どうした? スザク」 なにか忘れたか、それとも風で飛ばされでもしたか。 さもなくば、噛み付かれるとわかっているのに、猫でも見つけたか。 ぱっと三つもあげられ、しかもそのどれもがスザクをからかうことばかりで、スザクはへこむように頭を垂れた。 「なんでそんなに一気に思いつくのさ」 「そりゃ、付き合いが違うからな」 いくら間に長い年月を挟んでいたとしても。 それでも、幼少時のひとつの季節は大きい。 密度の濃い時間を過ごした者同士の連帯感、とでもいうべきか。 言ってやれば、ため息を吐かれた。 「まぁ、いじめるのはこれくらいにしてやるよ。それで? どうしたんだ?」 本当に猫でもいたのか? と問い掛ければ、否定をされ。 ではなにを、と問う前に、指で示された。 大きな紫と黒の羽を揺らした、蝶がそこにはいる。 迷うようにしながら、けれど優雅な様は幻想的であり。 煌く羽の光沢は、さながら美しい宝石のようでもあった。 「蝶? あんな立派なの、この辺にいたか?」 「クロアゲハかな? もっと青いと思ったけど」 光線の具合か、青が紫にも見える。 思っていれば、またはたはたと燐粉を撒いてどこかへいってしまった。 それを、惜しいとは思わない。 野生で生きていけるなら、それが蝶には良いことなのだろう。 「綺麗だったな」 「そうだね」 「………スザク?」 「ん?」 「どうかしたのか」 「……まいったな。僕って、そんなにわかりやすい?」 「それなりに。どうした?」 「いや……。僕、蝶ってあんまり好きじゃないんだよ」 苦笑交じりに言う、その姿にルルーシュは目を瞬かせた。 子供の時には、率先して採っていた覚えがあるためだ。 疑問を感じ取ったのだろう、困ったようにしながら、既に蝶が飛んでいったほうを見つめる。 「カブトムシとかの甲虫は好きだし、蝶もまぁ、嫌いじゃないんだ。綺麗だし」 「……さっきと言ってること、違くないか?」 「うーん。蝶の羽自体は、好きなんだ。でも」 言葉をひとつ切って、一度目を伏せると何処かを見据えるように。 穏やかで平和な、学園内は当然そこ此処に笑いが漏れているというのに。 スザクには、まるで届いていないようだった。 「でも、蝶自体は嫌いかな。なんか、気持ち悪いし」 「お前、青虫とかって駄目だったっけ」 「それはルルーシュも」 「確かに」 うごめく様は、見ていて怖かった覚えがある。 頷けば、だろう? と同意を求められた。 「羽はね。嫌いだけど、蝶っていう虫自体は好きじゃないんだ」 苦笑交じりの言葉は続く。 「あの羽だけなら、欲しいのに」 *** ルルは好き。だけど、ゼロは嫌い。 側面だけを認めて、けれど相手の本質もなにも自分に都合が悪ければ無視をする。 それは確かに、非常に人間的かもしれないけれど。 |