そして明日が待っている




 世界が暗く見えた。
 ランスロットのコクピットに座り込み、カチャ、カチャと動かしてみる。
 キィを差し込んでいないし、そもそもエナジーフィラーは現在抜いたままなのだ。
 動くはずもない。
 だがそれでも、ゆるゆると動かしていた。
 なにもしないでは、いられなかった。
 なにがいけなかった、なにがまちがいだった。
 憎しみにかられたから? でもそれだけのことを、ゼロはしたじゃないか。
 ユフィを殺したじゃないか。僕は彼女の騎士だった、守りきれなかったならせめて、敵を討ちたいと思うのは当然じゃないか。
 カチャカチャと、叩くコンソールはまるで意味のないものだ。
 膝を抱え込む。
 いつもなら、セシルが様子を見に来てくれるが、今彼女はロイドと共にシュナイゼルの迎えに行っていてこの場にはいない。
 シン、と静まりかえるトレーラー内。
 目頭が熱くなってきて、そのままスザクは涙を零した。
 ルルーシュ、るるーしゅ、るる、るる、るる。ユフィ、ななりー。
 大切な人たちの名前を呼び続ける。
 誰も返してくれないその寂しさの対価が、覚悟だというならそれはどれほどの寒さだというのだろう。
「僕をおいていかないで」
 か細い声が、ランスロットのコクピットに響くことなく霧散する。
 おいていかないで。
 ひとりにしないで。
 目的もなく、生かされなければいけないのか。
 ゼロは死んだ。
 でも、ルルーシュ。君も死んで。
 迎えてくれるはずだった世界は、どこにもなくなってしまった。
 ユフィもいない。
 特派は軍という勤務地であって、帰るところではそもそもない。
 では、どこに帰ればいいの。
 迎えてくれる場所はどこなの。
 膝を抱え込んで、泣くしか出来ない。
 だってそれ以外、どうすればいい?
 鬱々と顔を伏せていたスザクだったが、インカムからの通信が入ることでゆっくり顔を上げた。
「………はい」
『あ、枢木准尉ぃ?』
「ロイド、さん?」
『掃討作戦の前に、露払いだってさぁ〜。今、寮かなぁ?』
「いえ、ランスロットに」
『あっそぉ。じゃ〜あ良かったぁ。ポイント20から25までのあたりを、全部潰すらしいから。そのまま待機ねぇ〜』
「え……。潰す、って。黒の騎士団がいるんですか?」
『いないよぉ? 彼らはどっかもぐっちゃった。あっはぁ〜、でも、別に黒の騎士団だけがテロリストじゃないでしょぉ?』
「でも………」
『僕らは軍人。ひとごろしがオシゴト。正しかろうと間違ってようと、君がお友達殺しちゃったことを絶望しよぉと、関係ないの』
 だって、人一人が死んだって。
 それがどれだけ誰かにとって大事なひとだったところで。
 世界の運行に、なにか関係あるわけないでしょう?
 地球が壊れる、わけでもないでしょお?
 今日で時間が止まるわけでも無いし、明日が来なくなるわけでもない。
「そんな、の、って」
『あ〜〜〜〜! ごめんなさぁい! セシルくん、それは僕でもちょっと無理無理無理ぃ! あなたも笑ってないで止めてよぉ!!』
 言い募りかけたスザクだったが、既にロイドは聞こえていないらしい。
 奥からセシルの笑い声と、シュナイゼルの暢気な応援が聞こえてくる。
 既に、構う気などロイドには無いようだ。それよりも、直面していることのほうがロイドには大切なのだろう。
 怒りに任せて、憎悪に委ねて、手を汚して、ゼロを殺して。
 それで終わると思っていた。
 けれど現実は。
 親友だと思っていた人が死んで(彼を殺してしまったという事実が残り)
 帰る場所はなくなってしまって(親友の妹からも憎まれる結果が残り)
 終わるどころか、殺す日々が続いていく(そこになにももうないのに)

 手から零れ落ちたものはなんだった?
 手から離してしまったものはなんだった?
 わからない。


 ただ残っているのは、虚無と絶望だけだというのに。


 それでも、人殺しの明日が待っている。




***
 枢木さん絶望計画そのご。いい加減くどいと思いつつ、これにて終了です。
 自殺するに出来ない、というのも燃えたのですが、淡々とした日常に放り込んでみました。
 誰かが死んでも、朝はきます、お腹は減ります、眠くなります。そういう日常に埋没しかけて、スザクはまた絶望すればいい。
 忘れてもいいですが、軍に居る限り完全に忘れることは出来ないと思います。(スザクの立場的に、除隊は無理でしょうしね)





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