クラブハウスは、雑然としていた。 租界の中でも、かなり総督府に近いこの学園は良家の子女を預かっている全寮制なだけあってセキュリティや安全面がしっかりしている。 そのためか、瓦解したトウキョウ租界にあったにも関わらず建物のいくつかが半壊しているだけに留まっていた。 今は、避難住民を学園内に招き入れて生徒達も総動員して救助活動が続けられている。 そんな中である。パイロットスーツ姿のスザクは、当然ながら目立っていた。 視線のいくつかは、彼に対し胡乱げなものがある。 当然といえば当然で、黒の騎士団がこうした行いに出たのはユーフェミアの暴挙があったからだ。 いくらネットなどの情報がすぐに途絶されたとはいえ、目にした者は多い。 ユーフェミアの騎士であった枢木スザク、彼がなにも知らないとは思えない。という、疑心が人々にそうした眼を向けさせていた。 とはいえ、学園の生徒達がそれほどでもないのは彼の性格を知る者が多いためだろう。 この忙しい現状で、構っていられないともいう。 荒い息を整えながら、スザクは周囲を見回した。 物資のダンボールを前に、指示を飛ばしているミレイを見つける。 その傍らにはナナリーが、一人ひとりに声をかけながら毛布を渡していた。 彼女の柔らかな声と、対照的に溌剌としたミレイの元気な姿を見て安堵の様子を浮かべる者も少なくない。 急ぎ足で向かえば、リヴァルが声をかけた。 「スザク! お前こっちにきて大丈夫なのか?!」 「リヴァル、無事だったんだね。みんな」 「なんとかな。良かったー、お前アレだろ。最前線、出てた、って」 「うん。みんな、無事?」 「あー、ニーナがちょっとパニクってて今地下倉庫の中に引き篭もってるけど。それ以外は割りと」 「そっか。ルルーシュ、まだ戻ってない?」 「や、俺見てねぇや。会長、ルルって戻ってたっけ?」 「ルルちゃん? ううん、まだよ。よね? ナナちゃん」 「はい……。この状況下ですから、お戻りになるのは難しいのかもしれません」 なにしろ、租界が崩壊したのだ。 ゲットーの日本人による暴動も含め、生粋のブリタニア人である彼が歩いていて無事な保証はどこにもない。 「ナナリーに心配かけてまで、なにやってんだか」 リヴァルの発言はもっともだったが、本人の前で言うことではあるまい。 苦笑して、少女は一段落ついた毛布の山から手をおろした。 「大丈夫です。お兄様は、明日戻られると、言ってくださいましたから。今日中には、お戻りになるでしょうし」 「そうだけどさぁ」 「―――大丈夫だよ」 「スザク?」 「スザクさん?」 「大丈夫だよ、ナナリー。リヴァルも、会長さんも、みんな。大丈夫だよ」 だって。 「だって、もう悪い奴はいなくなったんだ」 「え?」 「ゼロは死んだ。もう、遺体も回収されてるはずだ」 まだ公式の発表じゃないけれど、と、口元に人差し指を当てて微笑むベリル。 若草色より尚鮮やかな瞳が、けれど言葉の持つ空気以上に剣呑な色を宿していることにミレイ達は気がついた。 「ゼロは死んだ。黒の騎士団も、今総督たちが全力で潰しにかかってる」 だからもう平和なのだと、スザクは笑う。 「でも、民間人の方も、いらっしゃるんですよね……」 戦争になってしまった。奪われた人命があった。 思えばこそ、繊細な少女はきゅ、と膝の上で手を組んだ。 祈りににた姿勢に、それでもスザクは笑う。 「うん、哀しいことだ。でもナナリー。戦争はもうお終いだ」 誰かの命を踏みつけて。 ルールを無視した殺人に手を染めたのだから。 終わらなければ、おかしい。 自分が憎しみに染まり手を汚したというのに、終わらなければ嘘だ。 「はやくルルが帰ってくるといいね。そうしたらまた一緒に、学校に通おう」 自分が築いた平和。 彼が微笑みを向けてくれるのが、待ち遠しかった。 *** 「だから安心してください」の続き。ルル戻ってこないと知るまでに行きませんでした……!orz スザクは独善的なんだなぁーと思います。今まで殺してきたレジスタンスのひとたちのこと、結局無視してる。 憎悪があろうとなかろうと、人を殺したら人殺しです。スザクはそれをわかってなかったと思った23話でした。 |