ラクシャータは、ソファに寝転がって忙しく立ち回るディートハルトや、他の面子を見やっていた。 彼女は技術者だが、そもそも映像の編集などは畑違いだ。 専門家もいるというのに、どうして自分が手出し口出しすることが出来よう。 煙管をゆらめかせている間に、ネットの配信が既に三回。 それはどれもすぐにブリタニアの手によって遮断されていたが、別の場所でハッキングの用意が出来ている。 手数があれば、こういう時に便利だ。 くぁ、とあくびを一つ浮かべて彼女は目の前に広がる壁が如きディスプレイを眺めた。 ひとつ潰されても、他にいくつでもある。 彼のいう、どちらが正義かという、その証拠たるビデオは大量に。 ラクシャータ自身、征服されたエリアの出身者だ。 だが彼女は特筆するほど、ブリタニアへの恨みはない。 彼女は純粋な技術者だ。正直、KMFの開発にさえ携われていれば問題は無い。 もっとも、だからといって名誉ブリタニア人などという非常に不本意かつ鬱陶しい肩書きなどいらないけれど。 目の前で編集映像の指示を飛ばすおとこは、純粋なブリタニア人。 だからこそ、ゼロやC.C.以外の黒の騎士団団員のほとんどが不信感を露にする。 「お暇ならば、なにか用意させますが?」 「いいわァ。気にしないで」 作業を見ていることが、面白いとも思えぬのだろう。 畑違いは、ディートハルトとて理解している。 それゆえの言葉だったのだろうが、褐色肌の女性は緩慢に手指を振るだけだった。 浅く頷き了承を示すと、また指示の作業へと戻った。 この後には、先ほどキョウトの重鎮(という名の古狸共)が合流し、演説になる。 少なくともそれまでには、いくつかの映像を残しておかなければならないのだ。 こういう、いわゆる後方支援的な役割は組織の中で軽視される割に大切なことを、ゼロはよく理解していた。 民衆の心を繋ぎ止めるポイントも、その効果も、ディートハルトのような人間の操縦の仕方も。 性別は恐らく男性。それは、あのボディ・スーツからみられる骨格で間違いはないだろう。 年齢は、間違いがなければ十代後半。下手をすれば二十代にもなっていないはずだ。身長を誤魔化しているとも考えられるが、歩幅をみればそれが彼本来のものだと理解出来る。自然すぎるためだ。 身のこなしは、かなり上品。品の無い様をしようとしても、どこか失敗している感が否めない。 例え乱雑な口を利いても、どこか品の良さが伺える。 本当に汚い口を叩けば、玉城のような荒っぽさが出るがゼロはどこか典雅だ。 以前、キョウトからの土産物として物資支援の一つに食料が大量に運び込まれたことがあった。 ゼロは自室で食事をしながら次の戦略を練る、ということで部屋に篭っていたが、下げられたナイフやフォークはきちんとマナーに則ったものだった覚えがある。 つくづく、謎の存在だ。 人の動かし方も、戦略も戦術も、理解する頭の回転の良さに敬服する。 その上で説く理想の甘さに、笑いが漏れるけれど。 「よし、三番と四番を連続して流せ。私は、式典会場へ向かう」 黒の騎士団の上着を脱ぐ男に、ひらりと手を振れば、なにを感じたのか相手が止まった。 「行かれないのですか?」 「人混みって嫌いなの。アンタの流した映像の状況でも、見ておくわ」 「素晴らしいものですよ。正義とは何者の名であるのか証明されるに、相応しいほど」 「あっそ」 興味のなさそうな様子に、けれど気分を害するでもなくディートハルトはカメラとインカムを用意して式典会場へ向かっていく。 目の前に広がるいくつものディスプレイには、血まみれの皇女。 一方的な殺戮、虐殺の映像。 確かに、これは「悪」だろう。何者も、そうと断じるだろう。 けれど。 「別に悪の反対は正義じゃないし、これだって結局、手を入れたものだと思うんだけどねェ」 関係ないのかしら? と、煙管を吹かせる。 ライヴの状況から、手入れをした時点で主観が入っていないとは言わせない。 捻じ曲げていないと思われるレベルで、けれど真実ではない。 まぁ、いいか。とラクシャータは口元を吊り上げる。 真実とは作り物の名前である。 *** とりあえず、23話の穴埋めに走ってみました。 脳内補完をすべきなのか、それとも現実逃避すべきなのか、ちょっとまだわかってません。 ええと、どうしようかな。 大人組(ラクシャータ・ディートハルト・藤堂さん)が好きです。 |