愛しげに愛しげに。 手を伸ばされる。 何度となく伸ばされては。 何度となく跳ね返してきた。 愛しげに愛しげに、手は伸ばされる。 大切なものを奪った人間。 彼さえいなければ、エリア11はもっと静かだったはずだ。 ゲットーでどれだけテロが起ころうと。 ゲットーでどれだけのイレヴンが粛清という名で、虐殺されようと。 彼さえ現れなければ、もっとエリア11は平和だったはずだ。 彼が全ての、悪だと思った。 彼こそが元凶なのだ。 スザクは銃を構える。 仮面の奥の、彼の表情はわからない。 否、知る気などない。彼は全ての悪なのだから、殺してしまおう。 ユフィ、愛しき白の聖女。 彼女の下した命令だとて、この男に唆されたからに決まっている。 どうして、全て奪うのだ。 己から、なにもかも。 嗚呼腹立たしくて、眩暈がしそうだ。怒りは腹の奥から湧き上がる。 「ゼロ、君を」 以前であれば、拘束すると言っただろう。 ルールによって、決められている。 たとえどれほど無意味なものだろうと、一応裁判にはかけられる。 死刑が決まっていても、必要なポーズというものがある。 けれど。 既に決定しているものだ。 自分がして、なにがいけない? どこがいけない? 主を、非道な行いに貶めた外道のテロリストを始末して、責められる謂れなどあろうものか。 怒りだけが全ての神経を、正確に伝っていく。 「殺す」 殺意は明確に、鮮明に。 だって自分は正しい。この殺意すら、正しい。 日常に帰る機会を、極端に減らした彼こそが間違い。 悪というものを知っている、だから善の行いに身を浸している。 だからこの行いも正しい、善行なのだ。 スザクはそう信じていた。より正確に言うなら、信じ込んでいた。 「枢木スザク」 「言い訳は聞かないよ」 「―――全ての責任は、私では駄目か」 「なに」 「黒の騎士団、イレヴン、出来る限り、君の僅かな権限を行使して守ってほしい」 「何を、今更」 「君がイレヴンを見捨てれば、もうこの国はどうしようもなくなってしまう」 「君がユフィに、妙なことを吹き込んだからだろう!」 「そうだ」 「………、認めるんだね」 「嗚呼、事実だからな。だからこそ、だ。だからこそ、君に言っている。枢木スザク」 突きつけられた銃口を怯みもせずに。 だからこそ、と、乞う声音。 「滅びるのは、私だけでたくさんだ」 言葉の直後に、銃声。 顔も見る必要は無いと、すぐに通信機で連絡を入れる。 「セシルさんですか? ゼロと交戦した結果、やむを得ず彼を射殺してしまいました。………いえ、はい。はい。わかりました」 端末を切り、ランスロットを見上げる。 白と金の、美しい機体。 明日の世界も、美しいだろうか。 事後処理をして。 幼馴染の彼らに会えるのは、いつになるかと遠い眼をした。 元凶は死んだ。 彼らは笑顔で迎えてくれる。 そう信じて、スザクは特派のトレーラーへ戻るべく踵を返す。 ゼロの死体は既に視界にいる、回収班が持って行くだろうが。 そんなことに、興味も無かった。 *** ありがちネタですが、枢木さんも絶望味わってしまえ計画☆ 枢木さんは、自分が誰を殺したのか知りもしないでルルーシュに笑顔で迎え入れてもらえると思ってクラブハウスへ行けばいいと思います。 絶望が両腕広げて待っててくれるよ。 |