おもちゃの行進




 すごいということばがきらい。

 さすがということばがきらい。

 すきだからやっているんだよ。

 きらいだったらやらないよ。



「ねーえ、セシルくん」
「はい?」
 整備のチェック項目に印をつけて進行状況を確認していたセシルが、斜め下方を見やった。
 だらだらとした体勢のままのロイドに、一発平手を軽く入れる。
 見た目通り柔らかい薄藤色の髪を撫でながら、ひどいーと嘘泣きをするが彼女は知らない。
 五歳、六歳の子供ならばいざしらず、中身はどうであれ三十路一歩手前の男がしたからといって感想など沸こうはずもない。
「たいてーの人ってさ〜ぁ?」
「はい」
 疲れているのか眠いのか、いつにもまして微妙に呂律が回っていない。
 彼女は、久しぶりに黒の騎士団へ拗ねた感情を向けた。
 彼らはテロリスト、という体質上ゼロはともかく作戦に割ける人員も多いのだろうが、特派は違うのだ。
 コーネリア救出となったナリタ攻防戦をはじめとした、いくつかの戦いで戦績は認められた。
 認められたら認められたで、これ幸いと事後が厄介そうな鎮圧やらなにやらの仕事まで舞い込む始末。
 要は体の良い押し付けである。
 データが取れると喜んでいた主任も、整備班長も、なによりランスロットのデヴァイサーたるスザクも、総合的なスケジュール管理をしているセシルも、流石に疲れていた。
 ここ数日の睡眠時間を、指折り数えかけてやめる。
 切なくなるだけだ。
 彼女の様子に気付くことなく。――否、気付いていたとしても、興味などないのだろう。
 人間に興味がないのだ、彼というひとは。
「すきなこには、すかれたいよねぇ」
 ・・・。
 思わず、沈黙してしまった。
 彼からそんな、人間味溢れた発言が出ようとは。驚きである。
「セシル君?」
「え? あ、はい。そうですね。大抵の人は、そうだと思いますよ」
 好きなヒトに、好かれたい。
 当然と言ってしまって良いかはわからないが、それが大衆の心理だろう。
 自分から、嫌われたいと思うことはまずないはずだ。
「だーよーねぇ?」
 うんうん。首を縦にする主任を前に、矢張りわからなくなった。
「ロイドさんは、ランスロットに好かれたいんですか?」
「なぁに言ってるのー。ランスロットは僕を好きだよ」
「………、あ、そうですか」
 間髪入れぬ答えに、思わず引き攣って返す。
 相手は一応、嚮導兵器なのだが。関係ないようだ。
「ランスロットは僕が好き。僕もランスロットが好き。わぁお! 両思いだねぇ」
「そうですねぇ」
「でもさーぁ? やっぱり、柩木少佐っていうパーツのおかげで良い調子だったり沈んじゃったりで、僕はちゃんとランスロットの全部を知らないんだよ」
 それこそ、設計からビス一本に到るまで関与していても。
 ランスロットは兵器、機械だ。そこに、本来ならばイリーガルなんてものはない。
 だが、ランスロットの最重要パーツ、"デヴァイサー"は生体だ。彼にはイリーガルが存在してしまう。
 故の日々の研究であり、細かいデータ採取であるわけだが、彼の存在はロイドが完全にランスロットを知らないという裏づけになってしまう。
 すきなこのことはしりたい。
 知るために、ロイドは研究を欠かさない。それは、別の意味で言い換えれば努力ということだ。
「ぼくは努力をしているよ」
「えぇ、知ってます。でも、せめてもうちょっと事務仕事も努力して好きになってくれませんか?」
「僕が書類を好きなんじゃなくて、書類が僕を完膚なきまでに嫌いなの」
 だから無理ぃ。
 へらりと笑うロイドに、セシルもまたにっこりとした聖母の笑みを浮かべた。
「じゃあ、人間との付き合いの前に、書類との付き合いを教えて差し上げますね」
「ごめんなさい、結構です」
「遠慮しないで下さい」



 徹夜続きの特派トレーラー内を貫いて、悲鳴が夜を割った。




***
 天才と呼ばれることが嫌いなロイドさん。自称しても自賛しても、根底にはちゃんと自分が今出来ることとかをきちんと認識していると思う。科学者の理性が。
 どっかで、ロイドさんは秀才。と出ていて、技術面でラクシャータに負け気味なので。
 彼は秀才で、ちゃんと努力してランスロットを造ったのかと思いました。





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