柩木スザクにとって、愛とは与えられるものだった。 それはもしかしたら、幼少時の母の死、そして、政務という名の仕事にかまけてばかりで欠片も父親らしいことをしてもらったことがないことからきているからかもしれない。 柩木スザクにとって、愛とは与えられるものだった。 与えようにも、自分には愛が無いと思っていた。 与えられたことがないから、与えられない。そう思っていた。 ある日少年は一人の少女と出逢い、そして彼女は高らかに言った。 『私を好きになりなさい!』 反射的に少年は頷き。 困惑しているところに、第二波ともいうべき言葉がかかった。 『私が、もっともっと貴方を好きになります!』 晴天の霹靂だった。 彼女は、好きになってくれるという。 愛してくれるという。 こんな自分を。 罪深き自分を。 晴天の霹靂は、喜びを伴うものだった。 嗚呼、ならば彼女と共に生きるために。 俺は頑張ろう。俺は生きよう。 そう思わせるに、相応しいものだった。 ここでひとつ、確認をしておかなければならない。 なにも、柩木スザクの周囲には誰もいなかったわけではない。 確かに、幼少期の体験により彼が言葉よりも手の出る性格に育ってしまったのは事実だろう。 だがしかし、彼の周りには誰も居なかったなんて。 殺した父親以外、愛情を注ぐ相手がいなかったなんて。 そんなことは、欠片としてなかったのだ。 ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。 そして、ナナリー・ヴィ・ブリタニア。 人質として送られてきた少年達が、いた。 彼らは、周辺の子供達から忌避されていたスザクに手を伸ばした。 帰る場所というには相応しくなくても、彼の居場所をちゃんと作っていた。 それはもう。 自然に。 それが愛ではないと、どうしていえよう。 それは確かに、愛だったのだ。 形の見えないものだけど。 言葉になんて、一度としてならなかったけれど。 肌身に馴染む、愛だったはずだ。 けれど、柩木スザクには届いていなかった。 否、届いてはいたはずだ。 だが、届いた愛は余りにも彼自身に馴染みすぎて、愛と意識されなかった。 在る意味で成功ともいうべきそれは、致命的なまでに失敗だったとしか言いようが無い。 いってらっしゃい。 それに対を成す言葉を、結局終ぞ柩木スザクが兄妹にかけることはなかった。 彼は選んだから。 ルルーシュにとって、愛とは与えるものだった。 母が亡くなり、死んでいるのと同じだと告げられた彼には、妹しか残されていなかった。 そんな中で、得た大切な存在。 なくさないように、こわさないように、彼らに平穏な世界が訪れるようにと。 尽力していった。 それは確かに、誰が頼んだわけでもないけれど。 けれどそれが、ルルーシュなりの愛だった。 誰にも本心が伝わらない、切ないほどの愛情。 惜しみなく注がれる、感情。 だが、物語が時として無慈悲に進まれるように、彼は選ばれなかった。 貴い時間は、ほんの少しの間の少女にとってかわられてしまった。 柩木スザクにとって、愛とは与えられるものだった。 持ち合わせがないから。 けれど既に、彼は沢山の愛を持っていた。告白されるだけが、愛ではないだろう。 ただ見守り、祈り、包むこともまた、愛だったはずだ。 彼は結局気付かなかったけれど。 それもまた、与えられなかったから知らなかったのだと、言うだろう。 後悔をした、其の頃にでも。 *** 録画している分を見返したら、柩木さんに純粋に腹が立ちました。 ルルは既に後悔をしているので、柩木さんにもぱーっと絶望が降りかかればよいとおもいます。(最悪だ) |