Please tell me.




 喘ぐような吐息。
 みぢりと、顔を覆うマスクを通り越して爪が立てられる。
 涙、嗚咽。
 枯れたから、だからもう、流れないと。
 思っていたのに。想っていたのに。
 嗚咽が溢れ、片目から熱を孕む涙が一筋綺麗にきれいに止め処なく流れゆく。
 喉がひゅうひゅうと鳴った。鳴り止まぬ、ならばどうすれば良いというのか。
 わからない。泣き方を忘れてしまった子供は、呼吸困難に陥るまで喚き方も知らずに泣くしかないのだ。
 C.C.は振り返らなかった。
 彼女は振り返ってはならない、ここで抱きしめれば、マオの二の舞だ。
 わかっていても、抱きしめてやりたかった。それが彼女なりの愛の示し方で、慰めだった。
 けれど、ルルーシュは手を払いのけるだろう。
 わかっていたから、だからしたいと思っても、しなかった。
 罪なら、もう犯した。
 では今恐れているのはなんだろう。
 わけもわからぬまま、涙を流す。
 喘ぐ吐息は、重く、重く。嗚呼、どうしたらいいのだろうと。
 悩む思考に果てが見える。彼女を殺さなければ、彼女を殺さなければ、彼女を殺さなければ。
 そうでなければ、彼女自身が浮かばれない。彼女自身に申し訳が立たない。
 彼女を利用しなければ、己はどこまでも失墜していくだろう。それは赦されない。ゼロには赦されない。
 でも涙は流れるのだ。
 一筋だけ、そこだけ。そこしか逃げ場がないように、逃げ道をそこしか赦さないように。
 喉がひゅうひゅうと啼いた。
 顔を覆う指先、爪は、立っていて。みぢり、ぢりりと、白皙の美貌を傷つけていく。
 ガリッッ!
 引っかいた音など、立つはずもないのに。
 それでも、C.C.はガウェインの操縦桿を握ったまま振り返った。
 その拍子に、普段は隠れている額に施された文様が露になる。
「怪我をすれば、心配されるんじゃないのか」
 眉間にそっと力を込め、唇を立てて不満を露にする少女に。
 けれど今はなにもいえない。
 泣けなかった少年は、泣き方を忘れた少年は。
 瞠目しながら。
 喘ぐのみだ。
 涙の流し方を、教えてくれと。
 声にならぬまま、嘆くのみだ。


***
 うっかり過呼吸にさせてみようかと思ったのですが、やばいガウェインの中でそんなことしたら死ぬ。
 と思ってやりませんでした。
 ルルーシュは泣き方を忘れようとした子供だと思います。忘れるには、甘さが足を引っ張って出来なかった17歳の子供。





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