少しだけお前とマオの気持ちが分かった気がする。 ぽつりと零したルルーシュに、C.C.は眼を眇めた。 眇めたまま、それは幻想だと一刀のうちに両断する。 わかっている、少年は肯定を示した。 そう、これは幻想だ。 わかっている。 それでも、 「それでも少しだけ、お前とマオの気持ちがわかった気がするよ」 力は、手にしていてこそ力。 振り回されたら、力なんていえない。 それは力じゃない、暴力だ。 ルルーシュが、恐れ、手にしようとして、厭うもの。 「マオはこんな気分だったんだろうな」 ココロの声が聞こえるマオ。 ギアスのオン・オフが出来ず、絶えず耳にし続けていたマオ。 C.C.に愛されたくて傍に居て欲しくて、壊れかけてしまった可哀相な少年。 六歳の子供から、なにひとつ成長できなかったピーターパン。 「さぁな」 私には、ギアス自体持ち合わせた覚えがない。 想像は出来ても、お前のように共感することは出来ないだろう。 C.C.はそう言って、金色の眼を伏せた。 脱ぎ散らかされたパイロットスーツは、純白。 まるで、誰かを彷彿とさせるようではないか。 気付いて、ルルーシュは歪んだ笑みを浮かべた。 最早彼に、穏やかな笑いなど浮かべる資格はない。 誰が言わずとも、自分でそう確信づいてしまっているのでは、仕方が無い。 C.C.に止める気はなかった。 全て、わかっていて契約したと。少年は言った。 どれだけ危ない力かも、どれだけ危険性を孕んでいるのかも。 全て承知の上で、契約を結んだと彼は言った。 ならば謝罪は彼の矜持を傷つける、彼の魂を踏み躙る、彼の心を穢すことになる。 そんなことを望んではいないから、C.C.は沈黙をもって応えることにした。 「誰かの気持ちをわかることなど、出来はしない」 想像は出来ても。 わかることは、ありえない。 だから、マオは苦しんだ。ただひたすら問答無用で耳を打つココロに、蹂躙されて。 狂いそうな自我を保っていたのは、偏に幼少時C.C.と過ごした優しい思い出があったからなだけだ。 「嗚呼、そうだろうな」 それでも、わかる気がすると、ルルーシュは続けた。 赤い鳥の羽ばたく瞳。 絶対遵守の強制力。 「マオとお前の違いは、だ」 ソファに寝転んでいたC.C.が、興味もなさそうに視線をこちらに向けることなく嘆息を零す様さえ見せずに言葉だけを放る。 「マオにとっては、周囲が化け物だった。醜い心をさらされて、正気を保っていられなかったから。お前は、逆だろう」 お前こそが、周囲にとっての化け物だ。 強制されたと思わぬままに、命令を行う。それは最早化け物だ。 嗚呼、それとも。 言いかけたC.C.の言葉を、ルルーシュの自嘲が遮る。 肩を竦めて、彼女はソファに転がり、ディスプレイが明るい、とだけ文句を零して背を向けた。 流れるニュースは、殺人と殺人と殺人。血の赤と死体と泣き喚き逃げ延びる人々ばかり。 これが、自身が招いた結果。 力に暴走されて、力に膝をつかされた結果。ゆえにルルーシュには、見ていなければならない義務がある。 流れるニュースを、彼は一晩中見ていたけれど。 涙が頬を伝うことは、結局無かった。 *** 別にルルーシュは、神になりたかったわけでも王になりたかったわけでもなく。 やさしい世界が欲しかった、だけなのだと思います。 過去形なのは、まぁ、察してください。orz |