黒薔薇攻防戦=花喰=




 乱雑に薔薇を口の中に突っ込まれ、ルルーシュは眉根を寄せた。
 軽く上げられた頤。
 睥睨する眼の、高貴な紫。
 ロイドは微笑んで、主の次の対応を待つ。
 程なく、棘の取り払われた薔薇の茎を持って口の中から引っこ抜く。
 なんとなく、予測していた行動なのだろう。
 詰まらなそうにしながら、それでも笑顔でにこにこと彼は見つめていた。
「なにがしたいんだ、お前」
 己の騎士に嘆息しながらも怒らないのは、彼の性格を熟知しているからであろう。
 ここで怒ったって、彼は聞き入れはしない。
 むしろ、怒ってもらったー、かまってもらったー、と、喜ぶだろう。
 うっかりそんなところを予測出来てしまい、眉間へもう一本、皺が刻まれた。
「我が君には、絶対薔薇が似合うと思ったものですからぁ〜」
「だから食わせたのか? 生の薔薇はまずい」
「そりゃ、食べるものじゃありませんしねぇ」
 美味しいわけがないでしょうよと言われれば、わかっているならやるなという視線。
 受け流して、一抱えほどある薔薇の花束から一本抜き取った。
 深紅のベルベット。
 肉厚の花びらをむしっては、掲げた指の先から落とす。
 はらはらと落ちるのは、辛苦の涙か。
「おい、無為に花を散らすな」
 掃除が大変だろうという、帝国の皇子にしては妙に庶民的な発言に騎士がくつくつと笑った。
「メイドがしますよぉ。咲世子さんが」
「なら余計にだ。ただでさえ、彼女には忙しくしてもらっているんだ。余計な手間を増やすな」
「はぁ〜いっ! 我が君の仰せのままに」
「二十九歳が拗ねても、可愛くないぞ。ロイド」
「………我が君がつーめーたーい〜〜〜」
「マオかお前は!」
「マオ君には優しいでしょう? 我が君」
 拗ねたアイスブルーを向けられて、う、と語を詰まらせた。
 それにまた騒ぎはじめるロイドに、嘆息を零す。
 マオに優しいのは当然だ。あれを拗ねさせると、相当面倒なことになる。
 その事実を差し引くにしても、ルルーシュがマオに甘いのは、彼を年齢相応に見ていないためでもあった。
 ルルーシュは、彼を十七歳、自分と同じ年とは思っていない。
 C.C.に甘える様子でもわかるように、七歳程度の子供としか見ないほうが懸命なのだ。
「いいですよぅ〜、だ。僕にはどーうせどーうせ冷たいんですからー」
「ロイド」
「なんですかー、ふーんだ」
 明らかに拗ねたままのロイドが、手にした薔薇をゆらゆらと揺らめかしては唇を尖らせている。
 大きすぎずに育てられた薔薇は、その度に夜の中を揺れた。
 今夜、幾度めかの嘆息。
 主からかかる声音に拗ねたこえでのみ対応していたが、ぺろりとなにかが髪に触れた感触で手を止めた。
 指先で取って見れば、先ほどばら撒いた花びら。
「………ロイド」
 甘く呼ばれて、こちらも甘い声音が自然と返る。
 呆れからのものだとしても、この声音を耳にするだけで至福が胸に宿る。
「俺が悪かった。機嫌を直せ」
「いいですよ〜。では、我が君にはこれを」
 振り回していた薔薇を、矢張りぽいと絨毯へ落として、花束から一本。
 他とは違い、黒に等しいほど深い紫の薔薇を抜き取る。
 その薔薇は、棘がとられていなかった。
 差し出される意味を察して、ルルーシュの皇族特有の紫色が細まる。
「貴方に薔薇の祝福を」
「いらん」
「わ〜が〜きぃ〜〜〜みぃ〜〜〜〜〜」
 即答され、泣き声に近いロイドの声に口の端を吊り上げる。
「だが、お前が捧げる祝福であれば、受け取らないでもない」
 次の瞬間、くるりと表情が反転するようにロイドが笑みを浮かべて。
 掲げられた薔薇を受け取るルルーシュの手の甲に、恭しく。騎士が口付けた。


***
 薔薇ネタ多いですね! 似合うと思ったが最後、どこまでも突っ走ります。
 冒頭のシーン、鬼畜なシュナイゼルにさせたら面白いかとも思ったのですが……。
 とりあえず、悪戯大好きロイドさ〜ん♪ で(笑・某撲殺天使OPのノリで) 






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