アッシュフォードに保護された時、ルルーシュは既に子供の顔はしていなかった。 日本の対応に語を濁らせ、殺されなかっただけマシだと祖父に言葉を返していた時には、なにをしたのだと怒りに眩暈を覚えたものだ。 確かにアッシュフォード家の没落は、マリアンヌの死にある。 だが、それとルルーシュ達は関係ない。 彼らは被害者だ。 弱肉強食を謳うブリタニアでは、被害者は赦されない、弱者は赦されない。 だから、アッシュフォード家は追われるようにしてエリア11にきたといっても過言ではなかった。 いくら属領地とされても、エリア全体がブリタニアに染まるということは無い。 その風潮が強くなり、仮に租界ではブリタニアの色が強くなろうと全体としてはありえない。 臆病者、軟弱者と罵られても、アッシュフォード家はエリア11に来ることを止めなかった。 止められもしなかったが、母は最後までミレイがこの地に来ることを反対していた。 彼女だけでも残り、本国の有力な家柄の人間と結びつくことを願っていたためである。男児に恵まれなかったアッシュフォード家では、彼女がどこか有力家に嫁ぐ以外再興は難しい。 それでもミレイはこの地へ来て。そして見つけた。 彼女の宝物を。 かなり痛んでいたけれど、彼らが彼女の宝であることに変わりは無い。 ゆえに、祖父が学園という名の箱庭の管理を一部任せてくれたことには喜び以外なにもなかった。 「ルールーちゃんっ」 弾むような声音で、ミレイが部屋を覗き込む。 吊るされた制服は、明日から彼が通うアッシュフォード学園の男子生徒用である。 もうすぐ、あと数時間で、彼は学園の生徒になる。 不安も無論付きまとっているが、楽しみなことに違いは無い。 尤も、本人は学園にいる間ナナリーと離れてしまうことが不安な様子だったが、それは彼女も高等部の生徒会に顔を出せることを条件にナナリーの説得もあって落ち着かせた。 あと少しだ。 もうちょっとで。 「どうしたんですか?」 「ん? なんでもな〜い。明日の準備はもう出来た?」 「えぇ、おかげさまで」 「あ〜あ〜〜。こっちに出入り出来るのも、今日でお終いね」 あまり、ルルーシュ・ランペルージとミレイが親しさを出すことはよくない。 贔屓とされれば行動は制限されていくし、注目が集まればどこで彼らの素性が露呈するとも限らない。 細心の注意を払うと思えば、ミレイがこのクラブハウスに出入りするのは望ましいこととはいえなかった。 「ありがとうございました」 「こぉ〜ら! 過去形?」 「ありがとうございます、これからも宜しく御願いします」 「よろしい!」 笑顔を浮かべるミレイに、ルルーシュもやんわり微笑んでみせる。 元気溌剌といかないまでもこんな笑みは、歳相応ではない。 けれど、彼に年齢に見合った態度など求めるつもりはさらさらなかった。 身につけた仮面もなにも全部、彼が妹を守り、自分を守ってきた結果のものだ。年齢相応のものをといっても、それは積み重ねてきたルルーシュという存在を否定することになる。 「アッシュフォードとして出来るのは、申し訳ないんだけど正直ここが限界」 肩を落として、本人に自覚はないのだろうが彼女自身もまた、年齢不相応な疲れた笑みを零した。 「充分です。本当に」 学園のセキュリティ・レベルは、明日から跳ね上がる。 シュタットフェルト家の病弱な令嬢が入学するということで、かなり寄付をされたのが原因の一つといえばそうだが。 他にも、原因たるものがある。 否、彼こそが、原因であるといっても過言ではない。 彼を、彼らを、守るために。守りきるために。 「でも、ミレイ・アッシュフォードとしては、まだまだよ! ガーッツ!!」 ガッツの魔法! そう言って、晴れやかに笑う彼女に、ルルーシュもまた笑いかける。 「んでね、ルルちゃん。生徒会一緒にやらない?」 「生徒会? ……目立つことは、あまり」 「わかってるけど。アッシュフォードとして出来るのはここまででも、私達自身には、出来ることはあるはずなのよ」 だから、変えていきましょう。 出来るだけ、住みやすいように。 出来るだけ、穏やかなように。 環境は揃った、整えるのは自分達でしていきましょうと。ミレイが笑う。 「そのほうがきっと、愛着も沸くでしょ?」 ね? 促されるように、片目をパッチリと閉じられて、仕方なさそうにルルーシュも苦笑した。 「いいですよ。でも、俺はあまり目立つことはしませんからね」 「おっけぇおっけぇ。任せときなさーい!」 楽しい学園にするわよ!! この楽園を、愛せるように。 この楽園で、安らげるように。 *** ミレイさんは、努力を怠らない人だと思います。 ガッツの魔法、最近見れないなぁ、と少し寂しいです。 ミレルルというよりは、お姉ちゃんと抱え込む傾向がある弟。っぽく。 |