願いよりきっと身勝手




 歓声と、不満。
 ない交ぜになっている空間を足元に、二人の男女は立ち尽くしていた。
 片方はこの学校の制服を纏っている。学園の人間ならば、知らぬ人間はいない才女。ミレイ・アッシュフォード。
 その隣というには多少距離をあけたそこに立っているのが、白衣を纏う男、ロイド・アスプルンド。
 彼らが婚約者同士であると知っているのは、割と多い。
 沸き立つ歓声を他所に無言であった二人だが、不意にロイドがミレイを見やった。
「いくつ思いついたぁ?」
「ぱっと、五つ程度ですか」
「あっはぁ〜! 僕の勝ちぃ。僕七個思いついたもん」
「いいんですか、そんなこと言って」
 皇族批判に当たるのでは、という言葉に、ロイドは嘲笑を口の端に灯す。
「あの人からなんも情報きてないしねぇ。ってことはアレ、彼女の独断っぽいしぃ?」
「はぁ?!」
 間髪いれずに、スザクやユーフェミアへやっていた視線を身体ごとロイドへ動かす。
 うんうん、満足げな様子のアイスブルー。
 腕をだらりと伸ばし、ホントだよぉ? と笑った。
「は、あ? え?」
「いやぁ〜〜。ここまでだと、僕も感心」
 むしろ、感心するくらいしか出来ることは無いのでは。
 そう思わずには、いられなかった。
「せめて、コーネリア総督の許可なんて……」
「出すわけないじゃなぁい。コーネリア殿下、ナンバーズ嫌いだもん」
「ですよね」
 ということは、これは本当に彼女の独断か。
 なんて浅慮。なんて短慮。
 どれだけ、お飾りであれば気が済むのか。
「それよりさーぁ、ミレイ君」
「はい?」
「彼らのもとに、行ってあげなくていいの?」
 あそこ。
 指差された先は、テント。
 そこから僅かに覗くのは、ナナリーの車椅子だ。
 パニックになる前、彼女はあの兄妹と共にいた。
「酷い話だよねぇ」
「え………」
「どれだけ奪えば、気が済むのかねぇ。ユーフェミア皇女は」
「………ロイド伯爵?」
「今度から、軍人なんか入れちゃ駄目だよ? マスコミは、まぁ今日のイベントでわかるとしても、さ。セキュリティチェックも、甘いし」
「………」
「良家の子女を集めているんだから、身元確認くらいしなくちゃ」
 その通りだった。
 祝い事や騒ぎごとは、極力派手に楽しくしたほうが後の脱力感や達成感は大きい。
 マスコミという世界を取り入れたのは、成功だったがオープンを売りにしすぎた感が否めない。
 ちゃんと身分確認さえとれていれば、少なくともユーフェミアの来場は防げただろう。
 否、彼女が己の騎士を見たいと願っても、それならミレイ自身が案内のために動けば良かった。
 そうしたら、こんなハプニングもなかったはずだ。
「………来年から、気をつけるよう言っておきます」
「そうしておきなさい」
 弾むような声音でもって、ロイドが頷く。
 テントの暗がりで、ルルーシュ達は身を隠していた。
 思わず、奥歯を噛み締める。
 何故。彼らがあんなところで怯えていなければならない。
 いくら序列が低かろうと、彼らとて皇族。
 こんなこそこそとしている必要は、無いはずなのに。
 悔しくて、奥歯がギシリと鳴った。
「我が君から一体、どれだけ取り上げれば気が済むのかなぁ。あのお飾り皇女は」
「ロ、ロイド伯爵」
 流石に今の発言はまずい。
 吐き捨てるような口調も、まずい。
 皇族批判ととられてしまう。
 だが気にした風もなく、ロイドは背を僅かに逸らせて斜に構えたような視線を投げかける。
 眼鏡の奥で細まるアイスブルー。
 ひどく冷静で、怒りと悔しさにぐらぐらと煮え立っていた頭がすっと冷えた。
「ね、え? ミレイ君。ちょっと協力してくれる?」
「………それは、ルルーシュ殿下達に、優しい世界になりますか」
「僕はそのつもりぃ」
 冗談ではない。この男は、知っている。わかっている。
 その上で、持ちかけてきたというなら。結婚は、ガニメデ以上にそちらが目的か!!
 一瞬で男の立ち位置を理解した彼女に、迷いが無いとは言わない。
 それでも、彼らが日陰で怯えている姿だけは我慢がならなかった。
 だからこれは、我侭だ。
 あのお飾り副総督と同じ、我侭だ。
「アッシュフォードとしては、お約束できません。ですが、ミレイとしてでしたら」
 いくらでも、手間もなにも惜しむことはしない。
 きっぱりと断言すれば、目の前の男が笑う。
 この男と結びつけば、得られるものはあるだろうか。
 打算だと知っていながら、伸ばされた手を確かにミレイはとった。
 握り返された手の冷たさとは対照的に、目頭が熱い。



***
 ロイドさん、地味に騎士設定。
 ミレイさんと結婚して、二人でルルを守ってください。





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