それだけが結ばれた約束でした。




 触れる手は、あまりの優しさに眩暈がしそうなほど。
 此処は自室で。
 だから、仰々しさとはまったくの縁遠い場所のはず。
 けれども場所もなにも関係ないと言う様に、彼は床から膝をついてその体勢を崩さない。
 灯りをつけていないのだから、そうとわかるはずがないというのに。
 薄い藤色の髪が揺れて、アイスブルーの瞳が細くなっていく様が、明確にわかる気さえした。
 大丈夫だと言われて。
 大丈夫だと宥められて。
 昔であれば、その胸に縋っていたかもしれない。
 けれど月日は子供を、子供らしくないものへと変化させる分には充分で。
 七年、八年、それだけの年月は、子供を諦めに浸らせるのに充分で。
 だから子供であった彼は、縋ることなどしなかったし。
 だから子供でいられなかったことを知る男は、それに対して特に不満も抱かなかった。
 ベッドに座り、項垂れる彼の足元に膝をつき見上げる。
 嬉しそうに、嬉しそうに。
 けれど穏やかな気配ばかりを放つのは、張り詰めてばかりいる目の前の彼のためか。
 口を開いて、閉ざす。
 見えるのは躊躇い。
 かなしいほどに、誰かに手を伸ばすことを諦めた少年。
 焦土でひとつ焼き払い。
 暗闇でふたつ押し込め。
 戦場でみっつ潰し続け。
 皇子としての矜持は死んで、彼に残るのは妹と残り僅かな日常ばかり。
「大丈夫ですよ、我が君」
 声音に震える肩の、なんと儚いこと。
 彼はまだ十七だ。
 十七で、抱いているのは野心ではなくいっそ美しいまでの願いだ。
 愛しい妹が、笑顔で暮らせる世界を。
 それだけが彼の、願い。
 それだけの、はずなのに。
 歩む道は、修羅。
「ラクシャータと手を組むのは業腹ですけど。それが我が君の願いならば、僕の願いでもありますし」
 あなたがいれば、耐えられぬことなどありませんから。
 ねぇ、手をとって。
 正式な誓いなどに、興味は無い。用も無い。
 ねぇ、手をとって。
 あなたを守る武器が、ここにいるのだから。
 己の意思で、あなたをまもるのだから。
「我が君。どうぞ御言葉を」
 命令という形でも、懇願という形でも、なんだって構わない。
 彼から注がれるなら、もうそれで。
「ルルーシュ……」
 決意とは程遠い震えた声で、うっそりと顔を上げた。
 面には、笑顔。
 困ったような、泣きそうな。そんな表情。
「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる」




 永久に、私の傍に。




「我が君が望まれるままに」



 剣じゃなくていい、盾じゃなくていい。
 参謀じゃなくていい、補佐じゃなくていい。
 傍に居るだけでいい。
 それでいい。
 それがいい。
 震える少年の心の裡を察してか。
 騎士は、ただ密やかに靴の先へ口付けを贈った。



***
 いや、あの。躁状態じゃないロイドさん、とか、て、駄目ですか……!
 テンション高いのは、演技な時もあると思います。
 嘘ですすいません、情景的に、長音を入れるとムードぶち壊し! とか思って真面目にさせてみただけです(じゃんぴんぐ土下座)





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