そう、と眼を開く。 世界は薄ぼんやりとしていて。 けれど、赤と青と広がる影の黒だけが鮮明。 空を仰ぐ。 薄い灰色にしか見えないのは、曇天のせいか。 仕合わせになっていくひとがいる。 不幸を嘆いているままのひとがいる。 仕合わせにしようとする人がいて。 不幸の芽を潰そうとする人がいて。 私はどこに分類されるのか。 栓の無い想いは、胸に凝って残ったまま。 母が殺された。 テロだった。 ありえないという噂が流れ、次には所詮庶民出の皇妃よと嘲笑に登った。 それ以来、瞳は開いても開く気はまるでおきず。 見たくなくて見たくなくて見たくなくて。 優しい気遣う声音を、追うばかり。 覚えているはずなのに。 確かに見た、はずなのに。 ごめんなさいごめんなさい、お母様。 私はあなたの最期を、思い出したくなくて仕方ありません。 お兄様はお優しいです。 佐世子さんも、優しいです。 ミレイさんも、カレンさんも、シャーリーさんも、ニーナさんもリヴァルさんも。 スザクさんも。 みんなみんな優しいです。 その優しさに浸って、私はなにも見えない振りをし続けています。 ごめんなさい、お母様。 怖がりで、泣き虫で、お兄様の重荷になってばかりで。 でも振り絞る勇気は、あの日潰えてしまったようで。 湧き上がる泉は枯れてしまったようで。 どうしても、思い出すに至りません。 お母様。 わたしはお兄様を、支えたいのと。 お兄様に、ずっと守られ続けていたいのの。 半分の間で、揺れています。 私を優しい世界へ連れて行ってくれている代わりに。 お兄様が、辛く悲しい覚悟と修羅の道を歩んでいることを。 知っているのに、知っているのに。 *** ナナリーは、全てわかっていたら本心から力になりたいと思ってくれると思います。 でも、それには彼女は乗り越えなければならないハンディが多すぎる。 思いと、でもそれを乗り越えられるだけの分って、また違いますよね。 |