屋根裏道しるべ




 無意味に強いていた警戒。
 無意味だと思っていたそれは、必要なものだった。
 出来うる限り警戒をしていても、まだ足りない。
 ここは彼らにとって、敵地だった。
 当時の自分はそんなこと知らなくて、なにをと思っていたものだけれど。
 今にして思えば、彼はずっとずっと戦っていたのだ。
 幼い自分は、それさえ気づくのが途方もなく遅かった。情けないくらい。
「それは、かなりあと読むんだ」
「なんで?」
「知るか。書いてある以上、そう読むしかないだろう」
「ふぅん」
 まだ納得の言っていない様子だったが、彼のほうが既に日本語の読み書きは堪能だったため一応の納得の体を示した。
 日本語は、世界でも有数の難解言語だ。
 なのに、日本に送られると決まっていくらも立たないうちに完璧といえるまでに彼はマスターしていた。
 その言語力は、スザクも認めるところだ。
「これは?」
「たり」
「じゃあ、こっちもたり? なんか変な感じなんだけど」
「そっちは『あし』だ」
「同じ字じゃないか!」
「状況が違うと、読み方も違うんだろう。日本には多いじゃないか、同音異義語」
「ドウオン?」
「……同じ音をしていても、違う意味をもつ言葉のことだ」
「嗚呼、箸と端、みたいな」
「お前の音だと、全部一緒に聞こえるけどな。そういうことだ」
「ブリタニアには、ないの? そういうの」
「あることはあるが、圧倒的に少ないな。それも、語句の節の区切り方なのが大抵だと思うぞ。日本語みたいに、多くは無い」
「単純なんだ」
「そうだろうな」
 簡単な言語の国だ、と、遠まわしに言ったところで、さらりと流された。
 気に食わなくて口を開きかけたところで、ルルーシュは既に本に眼を戻していた。
「面白い?」
「興味深くはある」
 言われたところで、スザクにはなにが書いてあるかなどさっぱりわからない。
 彼の成績は、お世辞にも良いとは言えない。
 体育の成績は常に最高基準であるが、それ以外はあまり良いとは言えなかった。
 対して、ルルーシュはそのどれもを卒なくこなした。
 とはいえ、彼は学校に通うことなくそのほとんどを土蔵で妹と静かに過ごしていたけれど。
 実際、学校に通うことになったらテストで100点など簡単に取れるのだろう。
 それが、スザクの印象だった。
「今読んでるのはなに?」
「マキャベリの思想哲学と、泉鏡花の夜叉ヶ池」
「………なにそれ」
「そこのダンボールの中に在った」
 示されたそこに、詰まれたダンボールの山。
 明らかに、邪魔になったから詰まれた感漂うそれらだ。
 一緒に突っ込まれている時点で、まずおかしいのだが。生憎、それがどんなジャンルのものなのかスザクにはさっぱりわからなかった。
「スザク」
「ん?」
「毎回、こっちに来て怒られているだろう」
「あー……。父さん達が、なにか言ってきた?」
「いや。使用人が、聞こえるように」
「な! 誰だよそれ! そんな奴、辞めさせてやる!!」
「お前にそんな権限ないだろ。落ち着け、それで提案なんだが」
 雇っているのは、スザクではなくその父親か母親である。
 子供がいくら言ったところで有耶無耶になるだろうし、二人が交流を持つことを柩木の家は良しとしていない。
 怒られるのはスザクだけで、下手をすればルルーシュやナナリーにも怒りの累が及ぶ。
 わかっていたから早々に宥め、大人よりずっと大人や世界や周囲の状況をわかっている彼は提案を示した。
「大人が中々来なくて、お前がわかる、家の近くは何処か在るか?」
「え、屋根裏とか?」
「即答か。なら話が早い。俺がこうやって、首許に手をやるから。そうしたら、屋根裏に集合な」
「そっか。外に出ないなら、目立たないし」
「大人も、俺達は大人しくしているものと思っている。最低限、俺もナナリーも土蔵からは出ない。俺が母屋に行くとは、考えないだろう」
「わかった!」
 子供への餌は、大人を出し抜くこと、大人より上位に立つこと。しかも、出来るだけ危険が少ないこと。
「屋根裏にこっそり行く道、教えてあげるよ」
「頼もしいな」
 二人は、顔を見合わせて楽しそうに笑った。
 ひっそりと会う以外、話すことすらままならない。
 窮屈な世界でも、狭い世界でも。
 それでもまだ、波風の少ない頃で。
 敵も味方も、なかったころの二人。
 かなしい愛しい二人。

***
 スニーカー、ぱら読みだったのですが。
 アニメとは設定違うところがあるとはいえ、そうか。という感じでした。
 妙に納得してしまったというか、やっぱり感が否めなかったというか。
 大人気ないにも程が。国のトップがあんなんで良いのか……!
 正直、勘弁してよorzな感じでした。






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