短い声を発した、図体の割りに子供の様子にミレイは用意していたお茶の手を止めた。 常に離さないヘッドフォンを外し、静かにしている彼の様子は張り詰めている。 弾かれたように、顔を上げる。 既にミレイのそれは、穏やかな淑女のものではなかった。 強張りかけるのを必死で伸ばして、大丈夫、と声をかける。 「誰か来るよ。350メートルくらい。正門からじゃない、コーネリアのことを心酔してる。でも軍人じゃない、傭兵? あ!」 「どうしたの」 「ナナリーを人質に取る、って。動けないなら面倒なこともないだろうって言ってる」 「誰の手の者かわかる?」 「十九番目の皇子の母親と、その系列、傍系かな。ちょっとまだ遠くて、それくらいしかわかんないや」 「使用武器は?」 「サブマシンガン六丁、催涙弾四個、ハンドガン九丁、全部フル装填してあるみたい。僕のことを警戒してる。ナナリーの騎士で、唯一男だから、って」 「そう。マオ、あなたはラクシャータとナナリー様のところへ」 「ミレイはどうするの? あああ、そんなこと考えてる。無理だよ、勝てないのはわかるだろう、危険すぎる」 武装はあちらのほうが多い。 彼女の心が流れ込んでくるため、言葉はいらない。 無理だ、彼女一人では時間稼ぎもままならない。 「流石に一人では無理ね。少し逸ってしまったわ、ごめんなさい」 狂暴な気持ちを押さえ、ミレイが微笑む。 本心からだとわかり、マオは安堵の息をついた。 C.C.ほどではないけれど、彼は確かにこの理知的な女性を気に入っている。 死なせるのは嫌だった。 「一緒に逃げましょう。ラクシャータと一緒に、ナナリー様もいらっしゃるはずだから」 「定期健診を狙ってきたんだ。あいつら。ナナリーに酷いことするなんて」 「大丈夫よ。すぐにルルーシュ殿下たちの許へ行きましょう。お茶はまた後で」 「うん」 言いながら、お茶の準備を放り出して二人は足早に宮へと向かった。 ブリタニアでルルーシュとナナリーの立場は、お世辞にも良いとは言えない。 並み居る子供達の首根っこを押さえつけるくらいの能力をルルーシュは持っていたし、ナナリー自身も周囲の空気を読むのに非常に長けていたが強者を強く推すブリタニアではそれだけは足りないのだ。 後ろ盾であった母をなくし、それでもなんとかなっているのは偏に第二皇子を筆頭にした上位皇位継承権者たちの覚えが良いからに他ならない。 仮に二十位以内の継承権でも、皇帝の椅子は一つであり、その補佐たる席も決して多くは無い。 母親というイキモノは、時にひどく我侭で、冷酷で、狂暴な存在となる。 今一番皇帝に近いとされている、シュナイゼル。 武官にコーネリア、文官にクロヴィスを据えたなら、それぞれは確実にルルーシュを自身の副官として招くことをするだろう。 それは、庶民の出であるマリアンヌの子供に、自身の子供が負けることを意味する。 彼女達は、慈愛の母であると同時に権力の亡者だった。 父親はそんな様子を、淘汰する手間が省けたとばかりに眺めるばかりで物の役にも立たない。 必然的に、自衛手段を彼らとその騎士達は学び、優秀になっていっていた。 |