Great Dinner Tonight!




「………は?」
 ナニコレ。
 スザクは、思わず呟いた。
 誰の明細だろう、コレ。
 いや、自分の名前が書いてあるけれど。
 あるけれど。
 ………誰の明細だろう、これ。
 特派に、自分と同姓同名漢字も一緒なんていう人物がいたとは知らなかった。はじめてしった。
 っていうか、ホントにナニコレ。
「どうしたの? スザク君。なにか不備があった?」
 セシルの穏やかな声に、ぎくしゃくと首を振る。
 そう? 首を傾ける彼女に対し、やはり壊れかけの玩具よろしくギシギシと首肯した。
 どうしたの? もう一度問い掛ける上官に向かい、深呼吸をひとつ。
「あの………」
「お〜〜〜めぇ〜〜〜〜〜でぇ〜〜〜〜〜〜とぉ〜〜〜〜〜! きょーおっはっうっれしっい給料日〜、なんだよね?」
 どっから沸いた。
 思わず、上官に対して敬語になることも出来ず思ってしまった。
 機嫌良さそうなのは、今日が彼の言うように給料日だからだろうか。
 だがしかし、軍人なんて基本的に軍部に詰めて、金を使うところがほとんどない。
 嬉しいものなのだろうか、と、疑問符が浮いた。
「これでランスロットの改造費に回せるお金が増えるぅ〜〜〜」
 至極楽しそうな声に、スザクは突っ伏した。
 セシルは知っていたのか投げているのか呆れているのかわからないが、皇族にもひけをとらないロイヤルスマイルを浮かべたままだ。
「ろ、ロイドさん?! 給料までランスロットに入れてるんですか?!」
「そうだよ? だぁって、お金使うところないしぃ。結婚するにしても、うち、両方とも資産はあるから」
 婚約者となったミレイ・アッシュフォードの家も、アスプルンド家も、金はある。
 確かに、生活には困らないだろう。
 ちなみに、基本的に軍人は寮に住み、外食をしない限り寮の食堂で食べることが基本だ。
 その際の料金は、入寮時に申し込みをしておけば給料から天引きされることになっている。
 まさか名誉ブリタニア人だからといって食事をわけるような面倒を、するはずがなく。
 食生活をいうなら、他の軍人と変わらない。
 流石に同じテーブルにつこうとすれば、食事のトレイをひっくり返されることもありこっそりひっそり食べることが習慣づいていたが。
「まったく。じゃあ貯金しなさい、って、いつも言ってるんですけどね」
「いつ貨幣価値が変わるかもしれない戦時下で、貯金〜〜〜〜? やぁだ。それだったら、ランスロットにつぎ込むもーん」
 あっけらかんとした口調のロイドに、はぁ、と間の抜けた声音で返すしかないスザク。
「んで? どしたの、柩木准尉」
「いえ、あの……。お給料、なんですけど」
「うんうん」
「なんでこんなにあるんですか………」
 そう。
 多すぎる。
 一等兵の時、自分の給料なんて本当に食費とちょっとした消耗品を買ったらすぐに消えるほどだったのに。
 何倍に近いんだろう。と思わせるほど、給料が高いのである。
「へ? あ〜あ、だぁって、君、騎士侯だもん」
「准尉ってこんなにお給料高いんですか?!」
「あのねぇ? 柩木准尉? 君、自分の身分わかってる?」
「え、ランスロットの、デヴァイサー?」
「そう! 僕の! ランスロットのデヴァイサーでしょ? 騎士侯でしょ? 尉官でしょ? 准尉って、どういう意味かわかってる?」
「少尉の、下?」
「ざぁんねんでーしーたぁ〜〜〜〜〜。あのねぇ、准尉、っていうのは、幹部候補生。士官学校卒業したての人間が、入るの」
「そんなに上なんですか?!」
「ちなみに、前にいた柩木准尉の地位から一等兵まで、数えると上等兵、兵長、伍長、軍曹、曹長……は、どうだったかなぁ? 准尉と一緒だった気もするけど。まぁ、それっくらい君のしたにはいるから」
 そりゃ給料も高いデショ、と、笑うロイドは、貴族階級なのも相俟って佐官であったりする。
 この若さに加え、技術士官でそれなのだから彼の有能性たるや半端ではないだろう。
「……名誉ブリタニア人になってから、こんな金額はじめてみました」
「そぉれはそれは、お〜〜〜〜めぇ〜〜〜〜〜でぇ〜〜〜〜〜とぉ〜〜〜〜〜〜!」
「折角だから、日ごろお世話になっている人がいるなら、ご馳走でもしてきたら?」
「………え?」
 両腕を広げて笑っているロイドを綺麗にスルーして、セシルが微笑んだ。
 にこにこにこ。という音が聞こえる気がする。
 それは、考えてもいないことだった。
 多すぎる給与明細を前に、思考が妙なところに吹っ飛んでいたらしい。
 彼女から与えられたのは、まさしく天啓にも等しいに違いない。
「折角お給料も入ったんだから。ね?」
「はい!!」
 笑顔で頷くと、スザクはパイロットスーツのままダッシュでブリーフィングルームへ駆け込んで行った。
 先に言っておくが、今日はもう上がり、とは、一言も言っていない。
「………あらら。行っちゃった」
「行っちゃいましたねぇ」
「誰だろうねぇ、あんなに喜んで」
「まぁまぁ、たまには良いじゃないですか」
 言いながらも、でもちょっと、お世話になった人の筆頭に自分達があがらなかったのが寂しいセシルだった。


「キョウカイセキ、ご馳走してもらおうと思ったのに………」




***
 たかる気ですか(笑) 准尉の給料なら、懐石でも問題ないとは思いますが。
 スザクが少佐でもロイドさん達が敬語になっていなかったことから、少なくとも彼らは佐官であると思います。
 いらん知識ですが、技術士官に作戦指揮権はありません。武官のみです。





ブラウザバックでお戻り下さい。