冷えた指先を擦りながら、リヴァルは参考書から顔を上げた。
 今のこのご時勢で、なにをやっているんだろう。
 思いながら、そばに積んであるアルバムの表紙を眺めやる。
 もう随分と、何度も何度もめくられたアルバムは、擦り切れないまま輝きを内包していた。
 速報で入ったニュースからこっち、アッシュフォード学園はてんてこまいである。
 本国に乗り込んでいった彼らが、あまりに当然とした態度で平然とした様子で着ていたのは学生服。
 すぐにどこの学校の人間か調べられ、連日連夜学外の校門にはマスコミがへばりついた。
 おかげで、反ブリタニアのイレブン……日本人は、人目があることを気にして襲撃をかけてこられないほどだ。
 ミレイも、その理事長の娘という立場と元生徒会長であるという立場を引き合いにだされ連日コメンテーターとして各ワイドショーに引っ張りまわされている。
 私はお天気お姉さんなのに。
 久しぶりに電話をしたら、そんな風に不満がっていたものだ。
 アイツはどうしてるだろう。
 一番の、悪友は。
 そう考えれば勉強なんてとても身につかず、リヴァルはアルバムを手元に引き寄せた。
 ちょうど開いたのは、猫祭りの写真が飾られている。
 泣き出したスザク、椅子に括り付けられたルルーシュ。だいぶ扇情的なミ格好をしたレイとシャーリー。
 ニーナも、この時は猫の帽子を被っていたのだったか。
 自分も笑っている。
 屈託なく、楽しそうに。
 知らず、ため息が漏れた。どうしてこうなったのだろう。
 もうこの写真に写っている人間は、この部屋にいない。当たり前のように一緒に卒業するものだと思っていたひとたちは、誰もいない。
 ぐすり。
 目の前がぼやけて、鼻の奥がツンと痛い。
 静寂を破るように、静かな生徒会室にコール音が響いた。
 慌てて、携帯を引っ張り出す。今のリヴァルは、残る最後の生徒会役員だ。
 そのため、昼夜問わず生徒からの相談(主には外にいるマスコミに対する不安)がかかってくる。
 性格上放っておけないため、不安定な何人かには携帯の番号を渡していた。
 画面も見ずに、通話ボタンを押す。

「もしもし? どした? なんかトラブルか?」

 大丈夫か? またどっかのマスコミが壁乗り越えようとしてるとか?
 矢継ぎ早に問いかけるリヴァルに、電話奥から小さな笑い声が聞こえた。

『そんな無謀なマスコミがいるのか。そっちは』

 聞きなれた、もう随分と聞いていない、悪友の声。
 慌ててディスプレイを確認すれば、確かに名前はルルーシュとあった。

「ルルーシュ?! お前、マジでルルーシュかよ!!」
『ひどいな。俺以外に誰がいるんだ?』
「ひどいのはどっちだこのバカ! お前、なにやって。いや、っていうか、どこにいんだよ!!」
『バカって……本当にひどくないか? 久しぶりの悪友に対して』

 あくゆう。
 自分だけじゃない、その認識に、また目に涙が浮かぶ。
 フレイヤが落とされてからこっち、涙腺がゆるくなっていけない。

「お前のおかげで、大変だよ。マスコミは張り付いてるわ、会長は警察にも軍にも事情聴取で連れてかれるわ、元生徒って親から事情説明しろって電話殺到するわ……」
『そうか、大変だな』
「お前のせいだろお前の!! なにやってんだよ一体!」
『悪い。ちょっと、な。色々、本気でやりたいことがあって。全力を尽くしたら、こうなった』
「皇帝位簒奪するのかがか?!」

 昔から、ぶっ飛んでるところがあるとは知っていたけれど。
 なにがどうしてそうなった。
 自分でもうんざりするほどヒステリックな叫びに、けれどルルーシュは電話口で楽しそうに笑うばかりだ。

『リヴァル』
「……なんですかー、ルルーシュさーん」
『拗ねるなって。……悪かったな』
「ばっ……! なんで謝るんだよ、ルルーシュが!! 違うだろ?! いや、俺だってお前の事情なんてちっとも知らないけど! でもそれは違うだろ?!」

 謝ることを、俺に、謝ることを、したのかよ。
 泣きそうに震える声で言えば、それには答えず、悪い、と、また、苦笑交じりの声音。

『これからもっと、アッシュフォード学園には面倒がかかることになるから。それも込みで』
「まだなんかする気か?!」
『さぁな』
「さぁな、って、ちょ、おい!!」

 言い募ろうとすれば、不意に無粋な雑音が過ぎる。
 ざらざらとした音に話の腰を折られ、唇をへの字曲げた。

『ん、悪い。盗聴されはじめたな。……この携帯も駄目となると、もう電話出来るかわからないか。最後に伝えたかったんだ。すまない、それから』

 さようなら、悪友。
 一方的にかかってきた電話は、切れる時も一方的で。
 慌てて受話履歴からかけなおすも、圏外もしくは電源が切れていると無機質なアナウンスが流れるばかりだ。
 まだなにも、自分は伝えてないのに。

「俺にだって、ありがとうとかさよならとか。それくらい、言わせろよ……」

 悪友なんだ、俺だって。俺だって、お前のことをそう思っていたんだ。
 冬の静かな空気に、リヴァルは重く息を吐いた。



***
 連載第一弾はリヴァルで。
 せめて月イチでは更新してぇとない頭使った結果、こんなネタ搾り出してみました。
 うん、皇帝就任から死亡の季節が一月じゃないことなんて知ってる。
 が、ギアスはまったく本編進行中季節がわからなかったのでご都合主義を突っ走ります。えぇ、もう!!←


一月、悪友に別れを告げた




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