その低い生存率の作戦は、ゼロでなくとも無謀とわかるものだった。 黒の騎士団がいくら武装勢力として声明を高めていっているとはいえ、所詮現在ではエリア11を主に騒がせている反抗勢力にすぎない。 紅蓮弐式という、他から比べれば多少優れた戦力はあるかもしれないが言ってしまえばそれだけだ。 国家単位で今なお、ブリタニアの植民支配から逃れ、もしくは抗おうとする勢力とは比べるべくもない。 EUで派手な作戦が行われ、それがどうにも失敗したらしい。 情報統制のされた中では一般に流れるものだったが、世のブリタニア人たちは気にも留めなかった。 所詮、彼らがいかに反抗と抵抗を繰り返そうともブリタニアの勝利は決まっている。 疑いもなく、迷いもなく、ただそれはそうだから。という認識で、彼らは目の前のニュースペーパーを放り捨てた。 取り残された味方軍のために、名誉ブリタニア人の小隊が動いたと。 報じたメディアは、残念ながらどこにもいなかった。 とはいえ、だから誰も知らないまま世間から消える。というわけでもない。 情報が遅れに遅れ、既に戦地へ旅立ち作戦行動中になってしまったとはいえ、黒の騎士団にもその情報は入ってきたのだった。 「助けに行くべきだ!!」 幹部の中から、高らかな声があがり周囲もそれに賛同する。 名誉ブリタニア人とはいえ、同じ国民同士。 今は一人でも味方に引き入れたいところだし、名誉ブリタニア人として租界を一人で歩ける人間がいるのはありがたかった。 また、一等兵や二等兵では情報を仕入れることは難しいだろうが軍内部に協力員がいるというのは動きやすい。 良いこと尽くめだろうと誇る玉城に、扇も賛同する。 四聖剣である朝比奈たちも、首を縦にしていた。 あとはただ、首領であるゼロの同意が得られれば大手を振って助けにいける。 期待を込められた視線に、けれどゼロ―――ルルーシュは否。と、短く口にしただけだった。 途端、その場から溢れるのは何故の空気。 「おいおいゼロ! そりゃねぇぜ!! ブリキ野郎に尻尾振ってる連中が許せねぇのはわかるけどよぉ」 ここは大人になって、助けてやろうじゃねぇか。 軽い口調の男に、そうではないと再度の否定。 言葉を遮られたことで不満そうな様子を鑑みることはなく、ディートハルトを促せば後ろのモニタにEUの勢力図が大写しされた。 「現在のEUとの戦闘範囲だ。その中でも、一番激化しているのがこのポイント。ブリタニアの進攻ルートから、恐らくβを利用したと推測される」 矢印がずず、と伸びて、赤く彩られた場所に止まった。 「そして、今回彼らが救出に行くこととなった戦闘ヘリが最後に着陸したのがこの街。つまり、一番戦闘の激しい場所へ彼らは放られたことになる」 「だから!!」 そんな危険な場所へ、生存率などあってないが如しの作戦へ、同胞が放られたというから。 助けにいくべきではないのか。 言い募る団員を前にして、ルルーシュは腕を一振りすることで静めた。 「ブリタニアの軍へハッキングをして、わかった情報がそこまでだ」 「現地へ行けば、なにかわかるかもしれないだろう?」 なにもせずにいるよりは、と続ける南へ、再度仮面を首へ振るう。 「EUへの繋ぎを、持つ者はいるか」 言葉に、静まり返ったまま重い空気が落ちる。 確かに黒の騎士団の知名度は、上がった。 扇グループとして活動していた頃に比べれば、雲泥の差である。 けれどそれは、あくまで国内での話。まして、現在ゼロがC.C.を介し繋がりを持とうとしていたのは中華連邦であってEU諸国ではない。 いくつかの繋がりは確かに持っているが、有力で有用なラインとは到底言えぬものばかり。 「だけど! 俺たちは弱者の味方で!!」 「その通り」 「だったら!!」 「そのために、本来守るべき日本国民を危険に晒すつもりか」 酷く、冷淡な声は誰の耳にも冷たく届いた。 ボイスチェンジャーのせいか、常のありすぎるほどの抑揚がなかったためか。 鋭い一言に誰かが、喉を鳴らして唾液を嚥下する。 「我々は確かに、弱者の味方だ。武器を持たぬ者、武器を持てぬ者、力無き者が力有る者に蹂躙されることを許さぬ正義」 毅然とした態度は、王者の風格。 見とれるディートハルトの視線をバッサリ切り落として、ルルーシュは続けた。 「EUへ、物資補給は私から申し出てみよう。その上で、彼らをこちらへ引き渡して貰えないか交渉をする。だが、戦力を割くには現状あまりに情報が足りない」 「……助けて、くれるつもりはあるのか」 「当然だろう。見捨てるなど、出来るはずもない。それではブリタニアとなんら変わらない」 助けられるよう、最善を尽くす。堂々と言い切られた言葉に、歓声が上がった。 それがどんな手段なのか、そのためにかかる金銭はどれほどなのか、そうして得られるものは何なのか、それによって失うものの被害はどれほどなのか。 語られることはなく、首領がマントを打ち鳴らして踵を返せば集められた団員たちはゼロがそう言うならば安心だと、穏やかに笑いあった。 背を追いながら、C.C.は金色の瞳で睨むようにその背中を見つめる。 正義を語り騙る男が、本物の魔王であればどれほど良かったか。 安穏とした空気を隠しもしない彼らには、知る由もないのだと思えば。 知らず、ため息が漏れた。 彼を追い詰めている原因のひとつが、確実に自分であることなど八年も前から承知の上だけれど。 *** 脚本家が地雷過ぎて恐ろしいが監督で期待してしまう。← |