確信なんて、当然あるはずがなくて。
 ただ、もしかすれば。なんて、期待をしていなかったといえば嘘になる。
 それでも、奇跡的な数字のものだろうと半ばあきらめていた。
「………黒の騎士団、元エースパイロットの仕事じゃないだろう」
「お生憎様、今の私はエース配達員よ」
 なんだそれはと、笑う魔女の手には財布。
 自分の手には、Mサイズのピザ三箱とサイドメニュー。
 つまりは、ピザ配達のバイト中だった。
「はい、11563円ね」
「古い知り合いのよしみだ、まけろ」
 あっさり言い切る魔女に出来るわけないだろうと、苦い顔。
 冗談だと返されれば、余計に懐かしい苛立ちが募る。
 12000円渡され、小銭を返せば確認もせずに玄関先の小銭入れへ消えていった。
 魔女が小銭貯金をする姿が笑えた。それはどちらかといえば、ルルーシュがやりそうなことだったからだ。
「お前がそんな仕事とはな。あの男に、日本政府へ誘われたんじゃなかったか」
「誘われたわよ。そっちもやってる。来週も、ラクシャータから紅蓮の改良と量産機データ収集で政庁へ行くしね」
「ほぉ?」
「母さん仕事出来る状態じゃないけど、学生やってた奨学金は返さなきゃいけないもの。お金は必要よ」
「ま、お前に不労所得が叶う才覚があるはずもないだろうしな」
 さらと言ってくる魔女へ、米神に四つ角が浮かぶ。
 贔屓になる客だの、昔のよしみだのは、綺麗に頭から消えていた。むしろ、昔の知り合いだからこそ消える。
「ルルーシュみたいに、働かないでお金稼げる人間が珍しいのよ! たいていの人は汗水垂らして働いてるの!!」
「そうか? どこぞでは椅子にただ座っているだけの政治屋もいるようだが」
「誰のことよ?」
「誰のことだろうな?」
 フン、と鼻でせせら笑うような態度で、誰のことかすぐ検討がついた。
 魔女の怒りは長いと、逃げ回っていた時に堂々宣言されたことがあったけれど。
 未だに彼女の怒りは解けていないことを思えば、扇が多少哀れに思えてくる。
 勿論自分だって、同罪だが。
「日本は平和だろう」
「そうね。何年前かは、戦争していたのが嘘みたい」
「現実で、事実で、真実さ。それはお前が、一番わかっていることだ」
 金色の目を細めて、彼女は笑った。
「大学へ進学したと、風の噂には聞いている。機械工学へ進まないのは意外だったが」
「冗談よしてよ。私がそんなの出来るわけないじゃない。紅蓮の性能引き出すために、マニュアル首っ引きだったのよ。作るほうなんて無理」
 頭を横へ振るえば、いつか分かれた日よりも伸びて肩を越した髪がぱらぱらと散った。
「なんにせよ、しあわせそうでなによりだ」
「アンタと……スザクと、アイツのおかげなんでしょうね」
「さてな? 私はなにもしていない。枢木スザクを殺したのは、お前だろう? 元黒の騎士団エースパイロット、紅月カレン」
 今の世界の立役者のようにいうには、おかしな話と。
 魔女は常と変わらぬ様で、笑う。嗤う。
「そうね……、そう、ね」
 軽口を叩けば返してくれるから。顔を合わせても、ゼロはなにも言わずにいてくれるから。
 うっかり、勘違いしてしまいそうになる。見誤ってしまいそうになる。間違えてしまいそうになる。
 そんなことで、許されるはずもないのに。
 あそこまで追い詰めた自分を、もうなかったことにしてしまいそうになる。
 罪を受け入れてしまう、人だから。
 罰なんてくれない人だったから。
 自分だけは、自分を許せないままにしておかなければいけないのに。
 許せないまま、仕合せな今日と迎えるべき明日を生きなければいけないのに。
「ま、義務感で幸せになられても迷惑なだけだ。適当なところで、自分虐めは切り上げてやれ」
「ず……いぶん優しいことを言うのね、C.C.」
「おや、知らなかったか? 慈悲深さに関して、私の右に立つのは魔王のみというレベルだというのに」
「はじめて知った」
 肩を竦めて、帽子を被り直す。
 そろそろ戻らなければ、流石に怒られる。
 まぁ、贔屓になりそうな客からポイントについてしつこく説明を受けていたといえばどうにかなるだろう。
 家にあがったわけでもない、玄関先で終わっている。
「それじゃあね、C.C.。またご贔屓に」
「あぁ」
 目の前で、扉が閉まる。
 あと数センチのところで。
「おいC.C.。さっきから一体誰と話して……またピザかこのピザ魔女!!」
 聞き覚えのある声が、聞こえた。慌ててドアノブに手をかけたけれど、既に鍵が掛けられている。
 どうして。思ってしまうけれど、どうしてもなにもないことを自覚する。
 多分、会わせなかった。それが魔女の今の答え。
 自分を許してやれとは言わず、自虐もいい加減にしろと発破をかけてくれた答えが彼女の今の心境。
 インターフォンへ指をやろうとするのを、理性で堪えてバイクへ走っていく。
 紅蓮の疾走感が、懐かしく愛しい。
 所詮ピザのバイクでは、なにも振り払えないまま引きずるだけだ。


***
 カレンにはピザの配達員似合いそうだな。と。


ヴァンサンカン




ブラウザバックでお戻り下さい。