その船の女性陣は、大変居心地が悪かった。 何名かは純粋に喜んでいたが、それでも微妙な違和感は拭えない。 その船の男性陣は、非常に複雑な心境だった。 開き直って喜んでしまえば良いのだろうが、そういうわけにもいかない。 「あぁ、なるほど。『カブキ』の家の出なのか。どうりで、所作が優雅なはずだ」 軍人とは違う優美さがあることを、黒髪の青年が頷けば。 照れるようにしながら、それでもはにかんだ笑顔で髪を高い位置で一括りにした青年が首を振る。 「俺は途中で、家を出たからな。随分がさつになったよ」 「謙遜をするな。氏より育ちというだろう。染み付いたものは、なかなか取れないさ」 「それを言うなら、ルルーシュだって十分上品……っていうか、格がある、っていうのか? そんな感じだと思うけど」 「気のせいさ。俺が家を出されたのは十歳やそこらだ。染み付くもなにもないだろう」 「じゃあ、生まれながらのものってやつかな?」 アルトに言われ、ルルーシュがくすくすと屈託なく笑った。 傅かれるか、もしくは憎悪の視線に晒されるばかりだった彼に、同年代の普通の態度は新鮮なのだろう。 まして、学生をしていた頃でさえ数人を除いてはいつ見つかるともしれない生活に、神経を張り巡らせて緊張していた。 笑う姿は自然なもので、おもわず見ている第三者でさえ顔を綻ばせてしまう。 「いやぁ。美人が並ぶっていいなぁ」 思わずのようにつぶやくのが、アルトの友人、ミハエルである。 目元が緩んでいるのが大きな失点だが、本人も結構な美形だ。 眼鏡を直しながらの言葉に、C.C.が首を縦にした。 「あの場に並びたくはないが、あれは鑑賞に十二分に値する。見ていて飽きない美貌が二つも並ぶとは」 「俺もびっくり。姫と並んで遜色ない美人さんが、まさかいるとはね」 「それはこちらの台詞だ。並の女が並ぶ程度では、完全なる引き立て役だというのに。なんだあの二人は、きらきらしいオーラまで見えているぞ」 「奇遇だなぁ、俺も」 のほほんと会話をする二人を、遠巻きに眺めながらの言葉は向き合って発されてなどいない。 只管に、二人を眺めながらのものだ。 そらすことさえ惜しいとばかりの態度に、銀河の妖精と名高いシェリルが頭痛を表すよう米神に指を付ける。 「この船には、私だってランカちゃんだっているのよ? なんで男二人の美貌褒めてるの!」 「……お前も十二分に美しいことは、私も認めるところだが。それにしても眼福だろう、あの二人は」 別格だ、と、廊下で笑いあうルルーシュとアルトを顎で示される。 どういう経路を辿ったかは不明だが、話題が日本の折り紙に移ったらしい。 空をかきながら、こんな風に折って。あそこはどうやって折るのだったか。 そんなことを話し合う姿は、とてつもなく微笑ましいものだった。 しばし見つめて、いやいやとばかりにシェリルは首を横にする。 「アルトも美人なのはわかるけど!」 「じゃあいいじゃないか。こちらにだって、美人はいたぞ? 私を筆頭に」 だが、それでもあの男の不意の笑顔には敵わぬのだと堂々告げれば、まず自分が筆頭なのかとミハエルはケラケラ楽しげに笑い出した。 「演技として穏やかなのもいけるが、腹黒い時の顔をしたアレの笑みも中々に壮観でな。まぁ、弱っているところも美しいが」 「弱っているところが美人なのは、うちの姫もだぜ。切なそーに眉を寄せるんだよな!」 「そうねぇ、アルトって意外と打たれ弱いからしょんぼりした顔は、ちょっと可哀想だけど」 それでも美人なことに違いはない、と頷けば、乗ってきた歌姫に魔女はにやりと笑う。 「悪人面でも美しい、私の魔王が一歩優勢というわけか」 「聞き捨てならないわ! アルトの女形姿なんて、本当に何人の男が踏み間違えたと思ってるの!」 「ルルーシュの男女逆転祭りの際のドレス姿で、何人の男子生徒が血の涙を流したか知らんとみえる」 「いやいや、姫の美人具合は負けてないぜ」 張り合いだす三人……正確に言えば、二人対一人なのだが喧々囂々と自慢話を繰り広げはじめる。 当然、少しばかり離れていただけの話の中心である美貌の二人にも届いているわけで。 「あの、魔女め……」 「シェリル……、ミハエルまで……。なにやってるんだ」 ルルーシュは片手に顔を埋め、アルトも肩を落とす。ちらと交し合った視線が交われば、苦笑にもつかぬ半分の笑み。 お互い、気苦労が絶えないな。と、慰めあうのであった。 それがまた、似合いすぎて論争が過熱していくのだが。 当人達はまるで気づいていなかった。 *** ルルと姫が並んだところに、女は入りたくないと思われる。(魔女と妖精は除く) |