それはもう、素晴らしいまでの笑顔だった。 笑顔だからこそ、わかってしまった。 彼女は怒っている。それはもう、底抜けに。天井知らずに。 彼女は怒っている。 怒っているからこそ、素晴らしい笑顔なのだ。 「はーろーおー、るーるーちゃあああああああああああああん」 にこにこと、男性ですら肩に担ぐのに結構な重量を感じるテレビカメラを鈍器として持って彼女は政庁の奥。 宮殿の奥にあらわれた。 後ろで、珍しく反省の色を見せる咲世子は主を前にもう一度腰を折った。 お止めしきれませんでした、というところだろうか。 「か、会長……」 「あらやだ、ルルーシュってば黒系だけじゃなくて白い服も似合うのねぇ。そういえば、私服にも白いジャケットとか着てたし違和感ないのかしら? あぁでも、そんなに似合うならもっと清楚系のドレスいっぱい作っておけば良かったわぁ」 にこにこにこにこ。 笑顔のミレイの額には、半ば当然のように四つ角。 恐縮しきるように、咲世子がぺこぺこと謝っている。 基本、泰然自若としている彼女なだけにその図はとても珍しい。 「あのか、会長……」 「ルルちゃん」 「はい!」 上座と、下座。 壇上と、その下。 皇帝と、珍客。 だがしかし、どこまでも力関係の差は歴然だった。 彼女が来ると連絡が入ってすぐに、人払いをしたのは正解だったかもしれない。 こんな姿、威厳もなにもあったものではない。 「なんで私にも言わないの!!」 きっぱり。 ミレイの一言に、ルルーシュが気まずそうな顔で視線を逸らした。 「やるなら言いなさい! 混ぜなさい!! アンタがいなくなって、シャーリーが死んじゃって、ロロなんて死んだって事後報告よ私?! スザクはいなくなるし、気がついたらニーナには書置きひとつで置いてかれたのよ?!」 「す、すまないと思って……」 「悪いと思ってるなら、私も混ぜなさい!!」 言葉さえ遮って、ぶん、と被りを振るう。 がしゃん。と、精密機器にあるまじき音を立てて、手からテレビカメラがすべり落ちた。 「今更、なくなって惜しむものなんてないのよ! 没落して、娘の結婚で盛り返そうとか考え出す時点で色々もう落ち目も通り越してるものなの!! お天気お姉さんやってたって、私はみんなの会長様よ?! 永遠名誉会長よ?!」 「なんですか、その役職」 思わず突っ込みを入れてしまうけれど、それは何故だかミレイ・アッシュフォードという女性によく似合う肩書きで。 小さく、笑ってしまった。 「混ぜなさいよ、ルルーシュ。後ろ指さされたって、石投げられたって、それがなんだってのよ。あなたは副会長、私は会長。私のお遊びを全力でフォローするのがルルちゃんのお仕事なら、ルルちゃんがやったことを全力でバックアップするのが私の仕事よ?」・ 「そうやって、昔からあなたに守られてきたから。今度こそ、迷惑をかけたくなかった」 自分が死んでも、彼女は生きる。 彼女は生きて、家も存続していく。 貴族制は廃止しているから最盛期の頃とまではいかずとも、アッシュフォードを再び表舞台の光の世界へ連れ出す準備は済んでいた。 「迷惑かけて、って言ってるの」 「会長……」 「大体、ロイド伯爵やセシルさんまで巻き込んでおいて、私が除け者ってなにごとよ?! その二人の前に、まず声かけるべきは誰?!」 「すいません!!」 迫力ある様で迫られて、即座に謝るしか道がわからなくなる。 わかればよろしい。とばかりに、胸を張る彼女にはもはや、笑いしか浮かんでこない。 「安心なさい、ルルちゃん。金や名誉や転がり落ちる絶望や。そんなもんで屈するほど、ミレイ・アッシュフォードは柔じゃないのよ!!」 晴れやかな宣言に、そうでしょうともと頷くより他はない。 彼女はお祭り騒ぎが大好きな、親愛なる会長様だ。 悲劇にもならない喜劇の構築を打ち明けたら、その時は笑って蹴りのひとつでもくれるだろうか。 *** C.C.様と別の意味で、ミレイ会長は最強だと信じている。 |