トラパーの軌跡が、綺麗な弧を描いては吹き抜けていく。
 青空を突き抜ける発光に、ルルーシュは月光号から目を細めて見守った。
 彼は戦略指揮官であり、またKMFのパイロットではあるがLFO(ライト・ファインディング・オペレーション)のライダーではない。
 一番はじめに見た時は空中サーフィン、の言葉が出てきたものだが、それにしたってルルーシュにサーフィンの覚えも無いのだ。
 どちらにしたところで、操縦は難しいだろう。
 今は、有事ということもない。
 訓練と遊びと、そしてちょっとした二人の空中散歩を眺める余裕はあった。
「よォ」
 邪魔、というには言葉が悪い。
 強いて言うなら、タイミングが合ったというべきか。
 後ろから声をかけてきたのは、この月光号の船長であるホランド・ノヴァクである。
 二十代後半にしては、やや憔悴と退廃の色を浮かべる男へ、踵を引いて体を向きなおさせればそんなご丁寧なモンじゃねぇよと笑われた。
「どうした」
「いや。微笑ましい二人を見ていた」
 ちらと窓の外へ顔を向ければ、視界のギリギリをニルヴァーシュが華麗に舞っている。
 赤いラインが印象的なLFOは、レントンとエウレカという少年少女二人で動いている代物だ。
「それだけか?」
「何が言いたい?」
 からかうように、ずし。と肩へ腕を乗せてくる相手をやや重そうにしながら問えば露骨なため息。
 そんなことに構わず、重いから退けと言ってやれば直ぐに腕は外されるけれど。
「どっかの父親みたいだと思ったぜ」
 もしくは、オニイチャンか。
 嘯かれて、けれど目を瞬かせた後はなるほど、と頷いてみせる。
 行動が意外だったのだろう。ホランドは、再度オイオイと笑ってみせた。
「なんだ、実はガキでもいるのか?」
 相手はC.C.を名乗る魔女かとからかえば、心底から冗談ではない。とばかりに渋い顔。
 深いため息までおまけでつけば、本心からだとわかろうというもの。
「アレは俺の共犯者だ。男女の関係になるわけないだろう」
「男女の関係ってよぉ……」
 また随分と古風な物言いだと、笑う男が灰茶の髪を掻いた。
「大体、それはお前のポジションだろう?」
「あぁ?」
「エウレカの父親役。マシューに聞いた。最初は、レントンを認めていなかったとな」
 喉奥で笑われるように言われれば、ずいぶんとバツの悪い顔をされる。
 今とて、全面的に認めているわけではないと言わんばかりの表情にルルーシュは相好を崩した。
「弟と、妹がいたんだが」
 ぽつと呟かれる声音には、愛おしさが滲み出している。
 蒼穹の向こう側にかすかなトラパーの光が見えるが、それだけ。
 ニルヴァーシュは、視界から消えていた。
 もしかしたら、もう戻っているのかもしれないがこの場所からではわからない。
 雲海と青の二色に塗り分けられた空は、明るい日差しを一心に地上へ降らせている。
「ちょうど、あのくらいの年齢でな」
「父親じゃなくて、オニイチャンってわけか。なんだ、アイツらに重ねるなんて会ってないのか?」
「弟は死んでしまったんだ。会いたくても会えない」
 言葉に、けれどホランドは一瞬息を呑むこともなく。
 少しばかり目を細めると、真剣な顔で問いかけた。
「死因は?」
「……戦争だ。よくある話だ。俺を庇って、死んでしまった」
「妹は?」
「生きているさ。だが、二度と会わない。そう、決めているんだ」
「せっかくの家族だろうに。モーリス達なんかいい例だろうが。家族ってのはいいもんだぜ?」
 言われて、わかっているとばかりに薄い笑みのまま首肯された。
 愛しているんだ。
 細い息のほんの合間に、紡がれた声音はなによりの真実だった。
 目を細めて空の果てを見やる青年に、ホランドは苦い苦い顔。
 エウレカやレントンに対しても時折抱く感情がふつ、と沸き起こる。
 まだ、二十年も生きていないくせに。
 大きくて大きくて大きすぎるものを背負わせてしまった、二人の少年少女を思い起こす。
「もっと大人がしっかりしてりゃあ、違うんだろうによぉ」
「うん?」
「悪いな。ガキにさせてやれねぇ、駄目な大人で」
 目の前の青年の事情など、何も知らない。
 ただ、居場所がないことや軍に反発する自分たちの思想に賛同してくれていること。
 加えて、反政府軍としての行いを蔑視せず支援し時には戦闘にも協力してくれていることしかわからない。
 けれども、彼が大きなものを背負っていることはわかった。
 身近に例がいるから、余計かもしれない。
「子供でいられるには世界はひどく、過酷だった。けれど、それは別にお前のせいではないだろう?」
 世界がひどい理由なんて、どこにもなくて。
 誰にもなくて。
 ただ、あるがままに存在しているだけ。
「強請るな、勝ち取れ。さすれば与えられん、だ。待っていればのいつかなんて、絶対に来ない」
 だから掴みに行っただけだ。掴みに行って、子供でいられない選択をしたのは俺自身。
 自らの行動に責任と義務を負わない真似なんて出来ない。
 嫣然と笑う青年は、子供ではなくて。
 大人ですらなくて。
 空へ飛び立とうとする人間だった。


***
 ルルとC.C様.は二人してray=outの人気新人モデルとして活躍なぅ。←


アイ・キャン・フライ




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