仮面越しに、鮮やかに舞い散るのが鮮やかなライトグリーン。
 魔女はまるで、そうである必然のように両腕を広げ背後の男を庇った。
 銃声が二つ。
 女の胸と、腹に、命中する。
 い蓬莱島、黒の騎士団本部イカルガ内。武器の携帯は原則禁止とされているが、それでも今は緊張時である。
 性別やクラスタにかかわらず、武器を常備している者など多くいた。
 首領であるゼロもまた、今がどういう時であるかをわかっているからだろう。
 特に口を出すことはしなかった。
 結果が、今だ。
「C.C.!!」
 カレンの悲鳴に、一瞬、目の前を暗くしていたルルーシュは意識を取り戻した。
 ぐらりと傾いで、女がこちらへ倒れこんでくる。
 反射的に魔女を抱きとめれば、すぐにぬるりと手に温かいものが触れた。
 仮面の奥で、息を呑む。
「ちくしょう! 死ねぇ!!」
 複数の人間に押さえつけられてなお、男が振りほどいてルルーシュへ。否、ゼロへ銃口を向ける。
 苦悶の表情を浮かべる女を、腕一本で抱き寄せて。
 白く暗い意識のまま、引き抜いた銃を男へ突きつけ。
 躊躇なく、引き金を引いた。
 ガァン、と、狭い場所に音が響き渡る。
 カレンや扇が、思わず肩を竦めたほどだ。
 次いで、男の悲鳴がさらに響き渡る。けれどゼロは気にした様子もなく、銃をおろした。
 男の手からは既に凶器は取り落とされ、代わりに伝っているのは血の赤である。
 ナイトメア戦での指揮や、ハドロン砲ならばまだしも。
 ゼロが直接的に手を下したことを、ほとんど見たことのない幹部達はそれぞれ目を丸めて驚いた表情。
 しかしそれにすら、構うことはしない。
「………その男を、独房へ。ディートハルト、組織細胞の洗い直しを」
「かしこまりました。ゼロ、C.C.は……」
「問題ない」
「は? しかし……」
「手当てならば、私一人で十分だ」
 まさか。
 はからずも、誰かが引きつるような笑いさえ浮かべて呟いた。
 C.C.の怪我は致命傷である。
 黒い衣装の胸と、腹をそれぞれへ血の染みが今も広がっていた。
 廊下にも滴り落ちている。決して、部屋に備えつけられた応急セットなどでは対応出来るレベルではないというのに。
「これは、魔女だからな」
 脱力状態の人間というのは、重い。
 ゼロの腕力では、彼女を支えながら歩くのが精一杯なのだろう。
 抱き上げるというには、随分な不恰好で踵を返していく。
「わ、私が!!」
「……そうだな、頼む」
 声をあげるカレンに、僅かの間の後ゼロが頷く。
 この場に長くいるのは得策でないとしてか、それとも、カレン以下の腕力であることを暗に認めなければならないことに躊躇いを感じてか。
 計算か、躊躇の間は短く。
 年頃の少女にしてはよく鍛えられた腕が、C.C.を抱き上げようとした。
 それを、ふるりと腕を震わせて逃れようとするのがピンで打たれた蝶より弱った魔女本人である。
「安く触れられては困る……、私は、魔女だぞ?」
 王にしか肌を触れるのは許さぬのだと、真っ白な顔で口元を歪める女に、そんなことを言っている場合かとゼロが嗜めた。
「フン……。お前が連れていけば……、良い、話だろう。ゼロ。この非力」
 口先のみの非難に、けれど力がこもっていないのでは無理をしているのがバレバレだ。
 そもそも、こんな軽口を叩けることさえ異常だというのに。
 ぜぃ、と、喉からかすれるような息が魔女から漏れた。
「カレン、C.C.を私の部屋に」
「ゼロ」
「それが俺からの、最大の譲歩だ」
 治療と称して、彼女の不老不死が暴かれれば確実に化け物と扱われることだろう。
 医者と科学者の多くは常に不老と不死の研究に余念がなく、そのためならば容易く味方さえ裏切る。
 人目に触れられたくないなら、大人しくしていろ。
 暗に告げる男へ、視線で責めるが効果は薄い。
「後で覚えていろよ……、まったく」
「ピザを好きなだけ頼んでやるさ」
 だから、今は。
 言外の言葉に、納得したような顔だけしてやる。
 ピザだけでは足りない。目覚めたら一番に、その綺麗な顔を拝ませろ。
 言ってやりたかったけれど、意識は途切れて中空を散華した。


***
 C.C.様の回復速度が本編でさえ、話によって違うので好き勝手に。
 


バジリスクの砂礫




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