時々、リヴァルは心配になる。
 勿論心配の種は、悪友であり親友であるルルーシュとその弟であるロロのことだ。
 ルルーシュのブラコンもさることながら、ロロのブラコンも更に輪をかけて相当な様子である。
 まさしく、溺愛という言葉がぴったりな二人。
 悪友として、親友として、少しばかり心配になる。
「いや、会長の魔の手から弟を守るのはいいんだけどさ。ルルーシュ」
 呆れ果てた視線にさらされながら、屈辱の涙を浮かべる絶世の美女を前に青少年としては少々淡白な物言いを彼はした。
 そりゃあ、お年頃である。きれいなお姉さんは大好きだし、きれいなお姉さんが泣いていれば手助けのひとつもしたくなるが。
 生憎、きれいではあるものの年上の素敵なおねえさんでは無い。
 同い年のクラスメイト、ルルーシュ・ランペルージである。いくら美女に変身したとはいえ、友達に劣情を抱くほど下種になった覚えは無い。
「なんかお前、自爆ってね?」
「ううううるさい!!」
 ぶんぶん頭を振るうけれど、髪にエクステかウィッグを紐で結び付けているのかズレたりしないあたり女子の本気が垣間見えた気がする。
 パッチリと上がった睫も、チークも、口紅の上にうっとりと引かれたグロスも。
 すべて、違和感なく自身を飾りたてる道具たらしめているルルーシュ・ランペルージという存在に改めて拍手を送りたくなった。
 意味などない。ただ、美貌を褒め称える拍手が存在しても良いはずである。
 そして同時に、若干の同情も禁じえない。
 ミレイ・アッシュフォードは、遊ぶ時はひたすらに遊びつくす人間だ。恐怖の大魔王ですら、彼女に遊べるオモチャ認定されたら泣きを見るだろう女傑である。
「お前、会長の本気にさらされたことあるか、ないだろ、ないから可愛いロロを人身御供に差し出せなんて人非人なことが言えるんだ! 笑っているのに目が笑っていないんだぞ?!  マスカラを手に意気揚々と迫ってくるんだぞ?! ファンデーションでさえ数種類用意しているんだぞ?! アイシャドウやアイラインが後から後からあの小さいポーチの中に入っているに はおかしいくらい出てくるんだぞ?! 物理法則が狂っているのか、女性の化粧ポーチは!」
「いいじゃーん。会長美人だし」
「猫が死に掛けのねずみをいたぶるのと同じ意味だとしてもか?!」
 迫られるくらいなんだ、むしろ迫って欲しい。
 口を尖らせて言えば、時として貴族相手に高笑いを浮かべる魔王のような悪友は鬼気迫る勢いで反論してきた。
「俺でさえ、ここまで体力を消耗させられるんだ……。ロロみたいに繊細な子を差し出せるか」
 がっくり。
 肩から力を落として言う相手には、最早乾いた笑いしか浮かばない。
 仮に、弟が自分を抜いてスクスク体育会系に成長したとしても、言を弄して背中へロロを庇っただろう。
 どうしようもないほどブラコンである。
 だからまぁ、余計に心配なのだが。
「ルルーシュさぁ」
「なんだ?」
「あんま、他人のことにいっぱいいっぱいになんなよ」
 カリ。髪の中へ手指を突っ込んで、少しばかり動かす。
 なんと言ったら、この胸の不安感は悪友殿に通じてくれるだろうか。
「会長だって、ある程度ライン守ってんのはわかってんだろーしさ。身内でさえ、それなりに引くべきところわかってるんだから」
 いつか、この鳥かごのような箱庭のような学園から出て。
 それでも、弟を守り続けるような。そんな人生には、して欲しくなかった。
「自分のための人生も、選択肢に入れとけっていうかさ」
 別にロロを見捨てろとか、そういう話をしているわけじゃない。
 ただ、最終的に誰かのために走り回る悪友は、突き詰めてしまえば<望む世界>のためなら世界のために自分を捧げてしまいそうだから。
 だからほんの少し、心配になって。
 笑うしかないような表情で、言った。
 言われた当人といえば、きょとんと目を瞬かせ肩を震わせ笑う。
「そんなご大層なこと、するわけないだろ。ゼロじゃあるまいし」
「ゼロなぁー。ブリタニア軍に捕まって処刑された、ってニュースじゃやってたけど」
「どうだかな。それにしては、黒の騎士団の幹部の処刑は最初のほうだけで、中枢メンバーに到っては流れていない。中華連邦へも亡命しているという噂もあるくらいだ」
 光らせる瞳は、わずかに獰猛なもの。
 自分と、弟と、学園という箱庭の平和を乱すならば、容赦はしないという宣誓に似た君臨者の顔。
 一瞬、見惚れかけていた自分をなかったことにしつつ、ひとまずは目の前の女装姿を盛大にからかうことにした。
 どうせ彼の最愛の弟が駆けつけば、すぐに構ってくれなくなるつれない悪友殿なのだ。


***
 その後一週間、リヴァルは背後につめたいものを感じ続けましたとさ。←


世界の基本骨子




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