赤く焼け出された二人は、ナナリーが疲れてくったりとしているのに意識を向けながら向かい合って押し黙りあっていた。
 ルルーシュの先の宣言は過激で、軍人に見つかれば即座に射殺されただろう。
 けれど幸いというか災いというか、こんな避難民だらけで心が折れてしまった人達を追うほどブリタニア軍は暇ではなく。
 スザクの耳にしか、ルルーシュの誓いは届かなかった。
「……そんな」
「やるんだ、僕は。こんな、こんなことばかりの国に、なんの価値があるっていうんだ。スザク」
 そんなことは、間違っている。
 間違った手段で手に入れた結果が、今、この目の前の惨状なのだ。
 暗澹たる、現実なのだ。
 ルルーシュは、それを知らない。
 知らないから、そんなことを言える。
 真実を知れば、彼とて思いを変えるだろう。
 震えて、開きかけた唇は、幼いながらも人生という時間のなかで唯一出来た友人を失う恐れを前に、閉じられた。
「こんな世界、間違ってる。こんなこと、間違ってる。振り回されるのは、真っ平だ。道具みたいにあちこちへ飛ばされるのも、スザク、お前の国がこれ以上荒らされるのも」
 栗色の髪を夕日に染まらせながら俯いてしまえば、かかる声音は本当に心底から彼を心配するもの。
 僕の国が、僕の父が、あの男が、ごめん。幾度謝っても、足りないことだとはわかっているけれど、それでも。
 本当にごめん、スザク。
 向日葵畑は焼けてしまった、こっそり可愛がっていた黒猫は死んでしまった、かくれんぼに使っていた防空壕は一瞬にしてその本来の用途を思い出してしまった。
 子供の僕らの行き場をなくしたのは、紛うことなくブリタニアの所為。
 黒髪に埋もれた、旋毛が見えた。
「……違う、るるーしゅ」
「違うもんか! 全部、ブリタニアのせいだ!!」
 顔を上げたルルーシュの顔には、憎悪が浮かんでいた。
 瞳の激しさに、何も言えなくなる。
 自分の、枢木ゲンブだって最低の人間だった。
 偉大な男なんかじゃなかった、そしてただの人間だった、僕は父を殺してしまった、殺せてしまった。
 結果がこれだ。
 目の前の状況だ。
 お膳立ては全て成された、その上で、引き金を引いたのは。
 最悪の展開に、サインを施したのは僕だ。
 目の前の惨状の原因の一端は、確実に僕なんだ。ルルーシュ。
 言いかけて、言えなかった。
 恐ろしかった。
 桐原老がそうしたように、無言で、責めるでもなく問い詰めるでもなく、ただ無言でいられたら、どうしようかと。
 想像が頭を掠めてしまえば、恐怖で舌の根が凍り付いてしまった。
「僕はブリタニアをぶっ壊す。……それで、枢木神社でまたお前と、一緒に遊ぶんだ」
 向日葵畑を耕しなおそう。
 防空壕は、ただのちょっと暗い遊び場に変わるんだ。
 あの蔵だって、きっともっと大人になって直せる技術を得られればナナリーだって住みやすいようになるかもしれない。
「その時はお前にも、手伝ってもらうからな」
 憎しみの炎を、少しだけ弱めて、ルルーシュが小さく笑う。
 頬に煤をつけて、追い立てられた子供が、それでも一片の夢を希望とするように。
 伸ばされた少年の手へと、知らず、スザクもまた伸ばした。
 重ねて、握り合う。
 冷たい水仕事や、踏みにじられることの多かったルルーシュの手は、出会った当初からすると考えにくい程に荒れていた。
「約束だ、スザク。僕たちはずっと、友達だって」
「そうだね、ルルーシュ。僕らは変わらずに、友達でいよう」
 ブリタニア人と、日本人という違いはあっても。
 皇族と、大統領子息という違いはあっても。
 それでも、関係は、友人でありつづけようと。
 誓い合って、握り合った。
 夕日は赤く空を染め上げて、子供たちのそんな儚い願いなんて容易く壊してしまいそうなほど高笑いをあげている。


***
 い、いちねんほーちごめんなさいorz


いつかを当座の花として、




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