「俺は君が嫌いだよ」 「知ってる」 何度となく交わしてきた、その言葉を。 改めて口にされようと、ルルーシュは気にしなかった。 おかしなものだと、彼とて思う。スザクに拒絶されることも否定されることも、恐ろしかったはずなのに。 その恐怖心は、一年前まで確かにあったはずなのに。 どこかが摩耗したとも思えないが、摩耗の一言が胸にしっくりと落ち着いてしまったため口に出すことはなかった。 「でも、どうしてだろうね」 視線を書類に落としたまま、人の話を聞く。 朝飯前、とはいえなかったが、それでも公務を二週間と続ける間にすっかり身についてしまった。 悪逆皇帝としてなにもしないことも良かったが、それではインパクトが薄い。 ただの怠惰な皇帝が、全世界から恨まれるなど不可能だ。 故の、悪政。そしてそこから、良い方向へ向かうにはどうすれば良いのかを考え続ける。 「君を殺したくは、無いと思ってしまっている僕がいる」 不思議だね。 言葉はひどく静かで、ルルーシュもそうだな、と短く返した。 「ねぇ、僕はどうしたら良かったんだと思う」 「さぁ」 まともに考えてよ。苦笑交じりの言葉であったけれど、皇は取り合わなかった。 スザクもまた、まともに取り合ってもらえるなど本心から思っていたわけでは無いようで口を閉ざす。 「俺は、君が嫌いで。俺の大事な人を根こそぎ奪った君が憎くて憎くて、仕方がない」 ユフィを殺した君、幼い頃のきらきらした輝かしい思い出を汚した君、嫌わない要素なんてどこにもない。 けれど同時に、僕は君に死んでほしくなんて無いんだ。 誰にも汚されてなんて、欲しくはないんだ。 ルルーシュは、スザクとジェレミアに絶対自分の死体に触らないよう徹底的に言い聞かせている。 民衆が殺到して、死体をあらゆる手段で陵辱されようと。 絶対に、庇う真似をしてはならない。そう、約束させている。 ジェレミアにしろスザクにしろ、頷かざるをえなかった。 ゼロが悪逆皇帝の死体を庇う真似をすれば、幾ばくかの不信と恨みはゼロへ向かう。 また、ジェレミアが庇うには撤退の時間が短すぎた。 自分のことなどより、と言い募った男に、己が騎士への数少ない命令さえ聞き届けて貰えないのかと切ない顔をされてしまえば、なにも言えなくなる。 「ルルーシュ。君が死なないという未来は、存在しないの」 「しない。……おかしなことを言うものだな。お前、未だに俺のことが嫌いなんだろう」 「うん、きらい」 「なら普通、喜ばないか? 嫌いな奴が死んでくれるんだぞ?」 「口で死ね、って言って本当に死なれて喜ぶ人間は、そうそういないと思うよ」 「お前は、その極まれにいる珍しい類じゃないか」 さっくり言い切られ、唇を引き結ぶスザクにようやっと書類から顔を上げる。 「君を、好きだと言えたら。君は、死なないプランを考えてくれていた?」 問いかけに、きょとんと目を瞬かせるけれど。 仕方の無い子供を見るようにして、少しだけ彼は笑う。 「お前の好きは、一緒に地獄を歩こうというエスコートにしか聞こえないぞ。スザク」 どちらを向いても地獄なら、ひとりで転がり堕ちる道を選ぶさ。 微笑む彼を前に、もう二度と好きだなんて伝えられない。 *** あの空白の二ヶ月で友情すっ飛ばして恋になっちゃったら。不毛極まりない。 |