肘掛にただ肘をつき、頭を預けて身体を僅かに斜に傾けて足を組む。 それだけの姿勢であったが、相手がルルーシュでは言葉通りの姿勢ではなく、恐ろしく画になった。 C.C.自身、自らの容姿にはそれなりの自信を誇るけれどこの男はそれを通り越したなにかがある。 悪魔的な、とでもいえばいいか。 思えば、口の端が釣り上がった。魔王相手に、今更の言葉だ。 吐息には僅かな憂い。 ギアスで奴隷にしておらずとも、少しこの男に気のある人間ならそれこそ男女問わずなんでもしてやりたくなる気分にさせるだろう。 うっすら上がった視線は、どこか遠くを見ていた。 「慈愛ではなにも救われない。悪徳と憎悪と嘘、そしてほんの少しの優しさが、この世界には必要だ」 愛と勇気と正義感だけで世界が救えるなら、とうの昔に世界は滅びている。 正義は国単位どころか、個人単位でその価値観を大いに異る。 全員が己の正義に殉じれば、血みどろの殺し合いだ。 愛は憎悪を呼び込んで、勇気は無謀の別名にしかならない。 最初から、嘘として悪として憎悪として、振るわれるほうが、力の方向として間違いは少ないだろう。 それこそを悲しむように、どこまでも優しく出来ている男の呟きに、魔女はいっそ哀れむ視線を送った。 この男は、騎士団の裏切りさえ仕方がないの一言で許してしまっている。 世界を統一した暁には死刑くらい求刑するだろうが、それが形式美を保つ以外の意味があるとは到底思えない。 いっそすっぱり殺してしまったほうが、後の世界のためにもいいんじゃないか。 思ったけれど、口には出さなかった。 彼女は魔女であり、魔女でしかない。口を出す筋合いはないと、目を伏せた。 「愛の裏には裏切りが棲みついて離れないし、勇気の裏には死の商人が大安売りの看板担いで笑顔で待っている」 「愛の表には美しい恋人の待つ家があるし、勇気の表には英雄と誉めそやす民衆が腕を振り上げていてくれもするだろう?」 間髪いれずに言い返されれば、そうだけれど。と一度認めたうえで、やはりルルーシュは静かに笑う。 「俺には、そういうのは似合わない」 「やっていたじゃないか、今まで」 「していたのは"ゼロ"だ。ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアじゃない」 穏やかな否定。 面白くないのは、彼が今までしてきたそのほとんどを知る魔女のみ。 嗚呼、面白くない。呟きに、けれど男は返事を返すことはしてくれなかった。 それが更に、彼女の不機嫌を呼び込むと知っているくせに。 「ルルーシュ」 「うん?」 「愛の傍には美しい思い出があって、勇気の隣には美しい協力者がいることを忘れるな」 「俺には愛も勇気も必要ない。必要なのは、計画を無事に遂行させられるこの中身があればそれでいい」 トン、と指先を米神が示す。 ますます不機嫌になる女へ、ルルーシュはほんの少し前まで浮かべていたどこか皮肉さを隠さない笑みを浮かべる。 「お前は共犯者だろう」 続いた言葉には、少しばかりむっとした表情。 拗ねられる前に冗談だと笑われれば、盛大に臍を曲げないでやった。寛大さに感謝すればいいのだ、この男は。 自分がいくつの子供だと思っている。愛だの勇気だのの精神論を語るなど、百年早い。 そう言ってやりたかったけれど、彼を子供にしておかなかった一端を確実に担っている自覚のある魔女は、やはり口を噤んだ。 文句は死ぬ直前で、十分だ。 *** 多分、後からこれ聞いてたスザクとかから「僕たちは?!」って突っ込まれると思います。← |